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ベアーズロック-神々の晩餐-  作者: ゆる


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#89 肉塊の花火


影のベアは口を開け、舌をむき出しにしている。

全身に力が入らず、呻き声を上げ、視線はベアーズロック隊員達に向けていた。


「…イマさん…凄すぎませんか。」

隊員達も圧倒的な力に圧巻であった。


「…うん…でも…」

警戒、身体が自然に覚えている。

歴戦の証なのか、その感覚はイケとサマー軍団長だけが感じていた。


「…軍団長。」

「…あぁ…総員撤退。」


声を上げず、小声で指示を出すサマー軍団長。

影のベアとの戦闘で、声に反応する可能性があると踏んだのだ。

軍団長と隊長の深刻な表情により、隊員達の口から「何故?」という言葉は出なかった。


「了解」の二文字を聞くまで数秒。

ゆっくりと後退、同時にアキの存在に目が泳ぐ。


それに気が付いたイケは足を止め、反対方向に足をすすめ始めた。


「…おいっ…戻れっ!」

声の届く範囲内の小声に、イケは無視を貫いた。


イマの視線がそれた瞬間、イケは回り込むように羽根を動かし、アキの元へと辿り着いた。

しかし、既にイマも踏み込み、イケへ針を向けていたのだ。


咄嗟の判断だった。

イケはアキを守るように抱きしめ、背中をイマの方向へ向けた。


その背中は、ベアーズロック達にも見えていた。

男の意地、根性、覚悟。

ただそれだけを見せた。


「…まったく…言う事の聞かない隊員を持つと苦労する。」


再び向けた視線の先、針を細い刃で押さえる技量。その姿は何年も前から見てきた勇姿。


「…軍団長っ!」

「たくっ、計画が狂ったじゃないか。早く彼と隊員達連れて逃げなっ。」

「…でも」

「最後くらい命令を聞けっ!軍団長命令だっ!」


その怒鳴り声でイケはアキを抱えたまま、その場から立ち去った。


「イケっ!」


突然呼び止めるサマー軍団長。

その視線はこちらには向けられていない。

イマの針を押さえるので精一杯らしい。


「…イケっ!本日より私の後任をお前に託す。新軍団長として皆を引っ張って行ってくれ。」


イケは唇を噛み締め、涙を流した。

その命令を下す時、それは死を覚悟した時なのだ。


かつてのベアーズロック宿舎での授業。

自分には関係ない事だと思っていた教師の言葉。

それが今、こんなにも涙を流させる程の事だとは思いもしなかった。


「…サマー軍団長より、後任の命令を与えられましたッ!新軍団長として命ずるッ!撤退ッ!」

涙ながらに出した大声は、酷く枯れていた。

しかし、隊員達も涙を流しながらその場から立ち去った。


「総員ッ!走りながら聞けッ!サマー軍団長に敬意をッ!」


「「「 ハッ!!! 」」」


それを見た彼女は、笑っていた。


「なぁ、イマ。私達は、本当に馬鹿な隊員を持ったよな。同時に幸せだったな。」


ーー威嚇。

敵意を剥き出しな程に力強く針を押し通した。

刃に弾かれた針は、サマーの左大腿へと刺さる。


「…痛ッ……ハハッ、一丁前に猛毒か。こりゃ私も潮時かな。」


次の瞬間…


ーースパンッ!


その音と共に、イマの持つ鋭利な毒の針は斬り落とされた。


ふらつくイマだが、荒々しい息を吐き続け、しぶとくも立ちはだかる。

「お前は昔からそうだよ。堅苦しいんだよ、こんな時にまでマジになんなし。最後まで一緒にいてやるから。」


サマーはイマに抱き着くようにしがみつき、羽根を動かした。

抵抗するイマだが、サマーの力は強く、微動だにしない。終いにはサマーの左肩を重いきり噛みちぎろうとした。しかし、途中から抵抗をやめた。


「…なぁ、イマ。私達が出会った日、覚えてるか?お前はあの時から仏頂面で、ちゃらんぽらんな私を叩いていたよな。実力差はそんなに無いのに、いつも私の前を歩く。でも前を歩いているお前は、いつも寂しそうだったぞ。だからさ、最後くらい、私がお前の横を歩いてやる。そしたら、少しは笑えるだろ?」


サマーは上空にまで昇り切ると、胸ポケットから手榴弾を取り出した。

栓を抜き、それを再び胸ポケットに閉まった。


「…イマッ!大好きだッ!」

サマーがイマを抱き締めると、イマはサマーの背中に優しく手を添える。

驚いたサマーがイマの顔を見ると、原型の無い顔でも、微笑んでいたように見えた。


ーー ※ ※ ※ ※ ※ ※


上空で爆発音が鳴り響き、何も無いはずの暗闇に、突如光が現れた。

遠目から見るそれは、綺麗な花火だった。

しかし、火花のように美しく散るそれは、尊敬した二人の肉塊だ。


その花火へ、隊員達は敬意を表した。




すると、何故か空が明るくなった。

青い空、白い雲、快晴ーー。


突然の出来事に困惑する隊員達。

イケが懐中時計を取り出すと、時刻は二を指していた。


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