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#8 地下帝国 ーまたいつかー


悲鳴の聴こえた方向へと飛び立った僕達は、大きな広場へと出た。するとその広場の中心には、四つん這いになった男が女性に襲いかかっていたのだ。

「何だよ、ただの変態かよ。」

そう言ってヤマはゆっくりと近付き、男の肩に手を置いた。

男は野生の獣のような声を出し、女性は怯えて辛うじて抵抗しているだけだった。

「はーい、そこまで。一緒に来てもらうぞ。」

ヤマの言葉に反応するように男はゆっくりを振り返った。しかし、男の目は赤く光り、人間とは言えない程の大きな口に鋭利な牙を見せた。

ヤマは男から大きく距離を取り、刃のグリップを強く握った。

「ヤマ!どうしたんだ!」

「こいつ人間じゃねえ。話なんか通じやしねぇぞ。」

確かに見た目は人間だが、中身は獣のようであった。どちらにしても、まずは人質となっている女性を助けなければいけない。

そのはずだった……。

ヤマは自身の刃を躊躇なく男の首へと振り下ろした。

男の首は女性の顔の近くに落ちた。生首は女性を見つめていた。亡くなっているのにも関わらず、怯える女性を見て笑っているようであった。

「大丈夫ですか!」

僕は女性に手を伸ばすと強く払い除けられた。

「遅いのよッ!さっさと助けなさいよねッ!」

そう言うと、女性はどこかへ行ってしまった。

「何だあれ?助けない方が良かったんじゃねぇか?」

「…仕方ないよ。怖かったんだと思うし。」

僕の言い分にヤマはまた溜息を吐いた。

「お前さ、ちょっとお人好しすぎるんじゃねぇか?」

ヤマの放った一言、僕はその言葉に怒りが込み上げた。

「僕がお人好しなんじゃなくて、ヤマが他人に興味無いだけだろ。今だってそうだ、男の首をすぐに落とす事だって無かった。上手く捕まえて、ラボに渡す事だって出来たんだ。」

僕のラボという言葉にヤマは表情を変えた。間違った事は何も言っていない。しかし、ベアの研究も生きた状態と死んだ状態では雲泥の差があると聞く。

「…一先ず、この男をラボに。」

僕がヤマとキリに声を掛けたその時、横入りするように一人の男が間に入った。

「その必要は無い。私が直々に届けるとしよう。」

堂々とした振る舞いで地上に繋がる階段から降りてきたのは、八年前と何ら変わっていない軍団長の姿がそこにあった。

「久しぶりだな。アキ、ヤマ、キリ。随分と立派になったようだ。」

僕達三人を舐め回すように見ては、速やかに男の遺体を布袋へ入れた。

「…僕達、地上に出れるんですよね?」

軍団長は背を向けたまま「ああ」と言った。

「だが、今地上に出る事がお前達にとって正解の道かは保証出来ない。お前達が見ていた八年前の景色と大差無いと言えるだろうか。地上に戻るなら、戻るなりの覚悟を決めておけ。」

僕とキリは「はいっ!」と返事をした。しかし、その返事と共に、ヤマは軍団長へと近付いた。

「なんだ?」

「あんたに言われた犯罪者三千人の捕獲。ちゃんと守ったぜ。」

「ああ、素晴らしいな。」

ヤマは何故かイライラした態度で振る舞う。

「御託はいい!ちゃんと手配して貰えるんだよな?」

「ああ、約束だからな。」

そう言うと軍団長は、ヤマの腹部を思い切り殴った。深くみぞおちに入った拳は、ヤマの意識を飛ばした。そして、軍団長はヤマを右肩に片手で抱えた。

「よし、行こうか。」

少なくとも僕とキリは、現状に全くついていけていなかった。


辿り着いたのは、僕が地下帝国に来た時に入っていた牢屋だった。

軍団長は牢屋を開け、ヤマを中へ放り投げた。

衝撃で目を覚ました時には、既に牢屋の鍵は閉められていた。

「おい!これはどういう事だ!」

「貴様が出した答えに対しての返事だ。貴様はこの先一生、この地下帝国からは出られない。」

牢屋の奥でヤマは怒り狂っていた。

それもそのはず、この八年間苦楽を共にしてきたんだ。そんな八年の集大成がすぐそこ、あと少しで地上に出られるのだ。なのに……。

「ヤマ、私は犯罪者を三千人捕獲しろと言ったのだ。ここ最近、貴様がやっていた事は何だ?」

ヤマは怒りを通り越したのか、僕達に背を向けた。軍団長の言葉にも一切耳を傾けなかった。

「貴様がやっていたのは殺し、捕獲ではない。そして、どんな人物であろうと生きる価値はある。歩む道を間違えた【ならずもの】なら、正しい道へ向けてやらねばならない。それが例え必要の無い事であってもだ。共に生きる為に。それを理解するまでは、到底ここから出すことは出来ない。」

そう言うと軍団長は、ヤマに背を向けその場を去って行った。

「…ヤマ。」

「……。」

「…必ず迎えに来る。それまで少し待っててくれ。」

そう言い残し、僕とキリはヤマに別れを告げた。

八年の間で、ヤマの間違いに気付いていながら、止めてあげられなかったのは事実。今回の件は、ヤマだけの責任ではない。間違った考え方を正せなかったのは僕自身だ。

「アキッ!!!」

僕とキリは振り返った。

「…絶対…だかんな。三年だけ…待ってやる。」

ヤマはボロボロに涙を流し続けていた。それを見た僕とキリは必ず地上で結果を残し、ヤマを迎えに来る決心を固めた。

「…必ずまたいつか会おう。」

八年経って僕達は、初めて背中を向け合った。


次回もお楽しみに!

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