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ベアーズロック-神々の晩餐-  作者: ゆる


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89/93

#87 沼


「…それで?最後に言い残したい事はある?」


彼女の放つ視線、それはまさに、軽蔑。


一悶着あった後、サマー軍団長は気を失っている自称深緑の男を砂から引っ張り出し、そのまま正座をさせた。


「…ちょっと待て…目を覚まして早々疑問なんだが、何故俺は縛られて尚且つ正座をさせられているんだ?」


「そっかぁ、星になりたいのかぁ。」


「そっちの星座じゃねぇよ!イケッ!何とかしてくれよこのイカれ女っ!」


「…無理に決まってるじゃないですか。サマー軍団長と付き合い長いんですから、よく知ってるでしょ。」


「くそおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!必死に生きてきたのに結局死ぬのかよおぉぉぉぉぉっ!」


旧友とのやり取りは、後に笑いへと変化した。


・・・時刻は、八を指した。


全てを暗闇に包み込み、冷たい夜風が皮膚へと刺さる。

イケ達はイマの案内で、ある人物の所へと向かう。


「…くっそ…足の感覚がまだ戻らねぇ。」


正確には、イケに担がれたイマ隊長の案内で。


「…重っ」と小言を漏らしつつ、かつての隊長様を担ぐ現隊長。


このような事態になると、過去の自分は思っていただろうか。いや、間違いなく思わないだろう。

成長という言葉を自身に投げ、鼓舞しながら前進する。


「…イマ…元隊長。これから会う人とは、どういったご関係なんですか?」

「…それも会ってから話す。今話しても、混乱するだけだ。俺もあいつから話を聞いた時は、暫く理解に苦しんだ……元はやめろ。」

「そう言われましても…そもそも何の話をされるのかも分かりませんし…元隊長。」

「ベアの…いや、この世界の真実…ってところか……元はやめろ。」

「…真実…ですか……元。」

「…お前…背後は俺が握ってるって気付いてるか。」


「…冗談です。」


それから彼等は疎通を交わさなかった。

気まづくなったーーその程度の話ではない。

抱える背中越しでも感じたそれは、強者の重圧とでも言うのだろうか。彼が虚言を吐くとは思えない。

これは冗談でも笑い話でも無い。

イケは感じた。本当に引き返せない沼へ足を踏み入れようとしているのでは無いかと。




「…ここだ。」

イマはイケの背中越しで枯れた声を張らせた。


辿り着いたのは、とある湖。

古城が立っており、全てを森が囲っている。

西に進めば、かつての王都サホロがある。


「…あれ…僕…此処に来た事があるような。」


ふいに吐露した言葉に、イマは聞き逃さなかった。


「そんな訳無いだろ。だってここは…」


イマが何かを言おうとした時、その言葉を遮るように聞き覚えのない爽やかな声が空を通った。


「イマさん。話には順序というものがありますよ。彼等にその話をするのは、早すぎるのではありませんか?」


そこに立ち尽くすのは、痩せ型で短髪の男。微笑みながら傾げるその姿は、やや不気味さを漂わせる。

赤い帽子に青い綿の入った衣類を身につけ、頭から足の先まで、気品のある服装ーー。


「…そうは言うけどな。お前の説明も大分分かりづらかったぜ?」

「それは申し訳ないと思っていますよ。皆さん、初めまして。突然こんな所に呼び出して申し訳ない。僕の名はアキ。」


ーーアキ。


その名を聞いた瞬間、イケの手足が震え始めた。

順に動悸が襲い、脳に激痛が走った。

イケは胸を押さえるように倒れ込み、悶え苦しんだ。

駆け寄る仲間達を横目に、意識が遠のいた。




白い靄のかかった空間。

場所は、先程見た湖によく似ている。

夜空には美しく輝く無数の星たちが散乱としている。


チャッ…チャッ…チャッ…


水が弾くような音。

振り返ると、その男は湖の上を横行する。

湖に近付くと霧は消え、男の顔がはっきりと見えた。


「大丈夫かい?」


男は首を傾げながら真顔で言い放った。


「頭をぶつけたみたいですけど、まあ大丈夫です。此処は…さっきの湖ですか?こんな素敵な空間に長くいると、気が抜けてしまいそうになりますね。こんな所に住めたら、どんなに幸せだろう。でも何でかな…初めてのはずなのに何故か懐かしく感じます…。それにしても静かですね。他の皆はどこにいるんです?」


「此処は異次元だよ。簡単に言えば皆とは違う空間にいるんだ。君は僕の名を聞いた途端苦しみだして倒れたんだ。現実にいる君は、まだ意識不明中。所で、何を感じ取ったんだい?、」


「…分かりません。貴方の名前を初めて聞いたようには思えなかった…それだけなんです。大昔に一緒にいたような感覚というか。すみません…曖昧なんですけどね。そうしたら突然、頭が痛み始めて。」


「ハハッ…面白い事を言う。僕と君は初対面ですよ。でも、君の言いたい事は何となく分かります。親近感…というやつですかね。」


二人は顔を見合せ、波長が合うほどに微笑みを交わした。


「え!アキもホッカイ島出身なんだ!」


「そうだよ。小さな村でしたが、それなりに楽しくやってました。」


「何ていう村?」


「確か…モルイ村だったかな。」


「……モルイ…村?」


再び脳に痛みが走る。

神経は血液を振動させ、イケの脳には見覚えのない記憶が過ぎる。


「大丈夫かい!?一体、君は…。僕の何が君をそうさせていると言うんだ…。」


「……アキ…やっぱり……。」




ハッとして目を開けると、見下ろすように隊員達が視線を一点に集める。


「…良かったぁ!」


ユイがイケに抱きつくと、甘い花のよう香りが鼻腔を通る。


「大丈夫か?」

サマー軍団長は安心した様子でこちらを見ていた。


「お前、アキの名を聞いた途端倒れたんだぞ?覚えてるか?」



ーーアキ。

その名を聞いて、漸く意識が鮮明となった。


「!?アキッ!!」

無理矢理に上体を起こし、辺りを見渡す。

先程の空間とは違う。最初に来た時と同じ場所。

少し離れた平地で、彼は湖を眺めていた。


イケはゆっくりと立ち上がり、足腰が重くなっている事に気付く。右足に重心をかけながら、彼に近付いた。


「…アキ。」


「…何か思い出したのかい?」


「…うん。」


「…そう。僕は…何も。」


「アキッ!君は僕の…」


すると、彼は僕の口元へ指を当てた。


「…今それを聞いたら…駄目な気がするんだ。」

「どうして!」

「…全ての闘いが終わった時に聞かせてくれないか?」


全ての闘いとは、何処を指しているのだろう。

ベアを一匹残らず討伐した時だろうか。

それとも、世界に平和が戻った時だろうか。


この時、イケは笑ったーー。

理由は無い。ただ、思った事は、


『 この世界のゴールは何処なのだろう 』


「…君には、言わなくとも分かるだろ?」


彼の強めの口調で我に返る。

彼は青色の衣類を捲りあげ、上半身に隠れていた焦げ茶色の毛皮を見せた。


「!?」


それを見たイケ以外の隊員達は、瞬時に刃を抜いた。


「皆っ!待ってくれっ!」


誰も聞く耳を持たなかった。

その眼は、疑う余地の無い程に、警戒という念が詰まっていた。


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