#86 深緑の一匹狼
ーーミシッミシッ
砂の上を歩く音は、一定のリズムで音を奏でる。
五人の踏み込みや歩幅によって、音は崩れたり、揃ったりしていた。
そんな事を思い浮かべるしかない程に、辺りは何も無いのだ。
ポケットから顔を出すレトロな懐中時計。
ネブタさんから頂いた餞別だ。
海上機関車内にあった上物時計より価値は下がるが、時間だけでも把握出来るのは有難い。
時刻は、六を指している。
海上機関車を降りてから二時間以上経過しているが、辺りに見えるのは砂のみ。強いて言うのであれば、砂を払う風と灰色の曇り空が見えるくらいだ。
「…何者だ。」
突然立ち止まり、声を発したのは、サマー軍団長だった。
一列に並んで進んでいた為、二列目の隊員はサマー軍団長の背中にぶつかり、それが後方へと連鎖した。
前方には、深緑のフードを被った者がいた。
それは顔だけでなく、膝まで身体を覆う衣類だ。
身体付きだけ見ると、男である可能性が高い。
「ホッカイ島がこんな状態になった原因を知っているか?もしくは…貴様が元凶か?」
男は何も言わずに、腰元から双剣を取り出した。
「北国の双剣使いか。かつての仲間に双剣使いがいた。貴様は果たして、彼より強いか?」
男は衣類を切り払い、双剣を振った。
深緑の衣類の中は、黒の戦闘服を装備している。
それでも、深緑のフードにより、顔は深くまで隠されている。
男は一瞬、姿を消した。
そして、再び現れたのは、サマー軍団長の目前。
男は双剣を同時に振り翳すと、サマー軍団長は大剣で薙ぎ払った。
「驚いたなぁ。目で追うのがやっとだ。」
何度も振る双剣にサマー軍団長は受け切る事で精一杯のように見えた。
しかし、速さを誇る双剣に対し、大剣は威力が強い。双剣の攻撃を軽々跳ね返す。
大剣で対応出来ているのは、間違いなくサマー軍団長の技量だろう。
金属と金属が擦り切れ、跳ね返る音が連続で響く。
両者一歩も譲らないまま、数分が経過した。
すると、男はサマー軍団長から一度距離を取った。
「どうしたんですか?もしかして、お手上げ?」
「…相変わらずだな、サマー。」
重低音な張りのある声。
男は顔を覆う衣類を後ろへと開けた。
「…!?」
「何だ?その情けない面は。俺が軍団長に指名したのは、もっと頼りがいのある女だったがな。」
その顔容に見覚えがあったのは、サマー軍団長だけではない。イケも同様であった。
隊員達はふとサマー軍団長に目を向けた。
すると、サマー軍団長は、両手で口を覆い隠し、滝のように涙を流していた。
「…サマー…軍団長。」
隊員達も掛ける声が見つからなかった。
軍団長が涙を流した、驚く材料としては充分過ぎる程であった。
「…悪かった。本気で闘うつもりなんて無いさ。見張りをしていたら、見覚えのある格好をした奴等がいたんで、ついな。お前達がこの島を離れてもう三年になるんだ、許してくれや。」
「…イケ隊長。あの男随分馴れ馴れしいけど、サマー軍団長の知り合いなんですか?」
隊員を代表して口を開いたのはアンナだった。
「…あぁ。三年前、この島から僕達を逃がしてくれたベアーズロックの元第一部隊隊長だ。」
「おい、イケ。元軍団長の間違いだ…いや、まあ数日しかやってねぇから忘れてても無理もないか…。」
「そんな事より、何故貴方が生きているのかって事の方が先に教えなければいけないことなんじゃ無いんですか?イマ隊長。」
「話せば長くなる。」
イマ隊長の表情は、突然深刻な表情へと変化した。
すると、サマー軍団長がゆっくりとイマ隊長に近付く。
サマー軍団長は、満面の笑みをイマ隊長に向けた。
「ボケがあぁぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!」
「「「「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?!?」」」」
イマ隊長は、全力の拳を左頬に受け、吹き飛ばされた。
目を疑う程にスローモーションであった。
左頬が拳で埋まり、それが痕になって吹き飛ばされるまでしっかりと眼に映った。
「あぁぁぁ、スッキリした♪」
サマー軍団長は幸せそうな表情。
イマ隊長は……砂に埋もれている。
「サ、サ、サマー軍団長!?何やってるんです!?感動の再会じゃないですか!」
この場にいた誰しもが思っていた事をユイが口にした。
「ダレアイツワタシシラナイ。」
「いやいや!口元押さえて感動してましたよ!?流石の僕も抱きつく流れかなって思いましたよ!?」
「…………ちょっと何言ってるか分からない。」
「何でだよっ!!」
深緑の謎の男はかつての仲間、イマであった。
感動の再会も束の間、謎は深まるばかりであった。
彼は何故生きていたのか。
この島で何が起こったのか。
ーー聞きたい事は山ほどある。




