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ベアーズロック-神々の晩餐-  作者: ゆる


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#78 新たな一歩


ライラと別れ、私達は再び森の中を歩み進めていた。

「…ライラ隊長が竜を倒したのかな?」

ミカナの言葉に私は反応しなかった。

「…分からない。でも姿が見えないって事はその可能性は高いんじゃないか?」

「…そっか…そうだよね…じゃないと、報われないよね。」

ミカナはオナットの言葉に安心したようだ。

しかし、私から見れば、ライラは決して報われたとは思えなかった。

それは、私達と過ごした大半の日々が最悪であったからだ。

ライラは相当辛かったに違いない。

もう少し早く…いや、初めからちゃんと話すべきだった。

どう転がしても、私には後悔しか残っていない。


暫く歩み進めていると、大きな滝の麓へと辿り着いた。森や苔に囲まれた滝は、神秘的な光景を映し出していた。

「…綺麗。」

「見蕩れている時間は無い。この滝を越えないと、ソウモリ村には行けない。」

この滝を越えれば、ソウモリ村へと繋がる洞窟に入る事が出来る。しかし、私達は大きな問題を抱えていた。

「…この羽根でどうやって行くんだよ。」

オナットの言うように、私達は竜に襲われた際、既に羽根を失っていたのだ。

「私達の先祖ニンゲンは、羽根なんて無かったそうだ。ニンゲンは山も己の足で登り、海も泳ぐ事が出来たそうだ。ということは、私達にだって出来るはず。」

「はぁ!?勘弁してくれよ!俺達ホウジンゾクは水は苦手だろ!」

オナットが嫌がるのも無理はない。私達ホウジンゾクは自然と水とは離れた生活をしていたのだから。

「…でも…もうそんな事言ってられないよ。水に耐える訓練はやっていたけど、サボっていたのは私達自身だし。」

ミカナの言う通り、新生ベアーズロックは水に耐える訓練もしていた。意味を問うまでもなく、私達はそもそも訓練には参加していなかった。私達がこうして第三部隊として選抜されたのは、実技試験の結果とライラの指名があったからだ。

それを聞いたオナットは何も言えずにいた。

「…此処で死んだら情けねぇよ。」

オナットは覚悟を決めたのか渋々滝へと向かって行った。

「大丈夫だ。冷水に耐えられずあの世逝ったって報告しておく。」

「何も大丈夫じゃねぇよっ!?」

私達三人は水に足を踏み入れた。

全員が顔を真っ赤に染め、悶絶した。

耐えきれず私達は一度水から出た。

「…無理……絶対無理。」

「…チ…チ…チベタイ。」

「…なぁ。ベアーズロックの水に耐える訓練って何やってたっけ?」

私達は月夜を眺めながら、かつての記憶を思い返した。


──────


「これより、耐水訓練に移るっ!では、まず第一部隊隊長センリ!前に出ろっ!」

「はっ!」

すると、各部隊の隊長達が木桶を手に取り、前に出たセンリ隊長を囲んだ。

「この中には大量の水が入っている。」

軍団長が話した後、各部隊の隊長達はセンリ隊長に思い切り水を掛けた。

私達隊員は驚きのあまり声も出せなかった。

しかし、センリ隊長は微動だにせず、手を後ろに組んだまま立っていた。

「我々ベアーズロックは、ホッカイ島で数々の訓練や闘いを経て強くなった。水が苦手なホウジンゾクだが、耐水訓練を積めばこのように動じなくなる。」

すると、軍団長や各隊長達は再び別の木桶を手に持ち、自身の頭部から水を被ったのだ。

水が跳ね返り、それは私の肌に付着した。一滴の雫が触れただけだが、水は異常な程に冷たかったのだ。

それを感じたのは私だけでなく、最前列に並ぶ他の隊員もだった。


「…こんなの拷問だ!」

「そうだ!理不尽だ!」

一人の隊員が声を荒らげると、忽ち賛同する声も上がり始めた。

「拷問?そう思ってもらって構わない。」

軍団長の開き直った態度と言葉に一同驚きを隠せずにいた。

「この程度で拷問だと言うのであれば、ベアとの闘いには到底耐えられないだろう。理不尽?笑わせるな。私達は至極理不尽で殺伐とした地で闘ってきた。痛い?苦しい?当たり前だ。旧ベアーズロックの隊員は、とうに命なんて捨てている。それが嫌なら今すぐこの場から即刻立ち去って貰っても構わない!」


この言葉で何人の隊員候補達が去って行ったのだろうか。初めは百人は集まっていたのに対し、今は半分も残っていない。そんな中、私もこんな無謀で理不尽な訓練に嫌気がさし、その場から逃げ出した。


「何が理不尽で殺伐とした地だよ。あいつらは自分からベアーズロックに入隊したんだろ?少しベアと闘ったからって偉そうに語りすぎだろ!」

「まあまあ、落ち着けよオナット。俺達はもう隊員じゃない。これからは前みたく楽しく過ごそうぜ。」

「ジャズの言う通りだよ。辛い訓練に耐える位なら、こうやって集まってお酒飲んで葉巻でも吸ってた方が楽しいよね。ね?アンナ。」

「言えてる。」

サトウキビ畑の一角は、砂浜に流れ着いた外国の物や昔人間が使っていた謎の残置物を集め、一種の秘密基地のような状態になっていた。ベアーズロックが来る前から、私達はここで過ごす事が多かった。


ガサッ……ガサガサッ…


近くのサトウキビ畑の葉が揺れ動く。

「誰だッ!」

サトウキビ畑の葉をかき分けて姿を表したのは、先程ベアーズロックの前に立っていた隊長だった。

「誰だよあんた。」

「失礼ね。隊長の名前も把握していないの?」

その隊長は挑発するような言い方と態度で返答した。それに対し、ジャズは怒りを顕にした。

「何だとコラァっ!」

ジャズが隊長を名乗る女の胸ぐらを掴んだ時、気が付けばジャズはその場で倒されていた。

「…は?」

すると、女はしゃがみ込み、ジャズに目線を合わせた。

「ベアーズロックで最弱の私に負けているようじゃ、ベアなんて絶対倒せないわよ。」

それだけ言い放ち、女はその場を立ち去ろうとした。

「待てよ。私達は別に正統派じゃないから。このまま帰すわけないでしょ。」

私達は女を取り囲み、一斉に殴り掛かった。


──────


「…あの時結局どうなったんだっけ?」

ミカナは空を見上げたまま、私に問い掛ける。

「負けた。一週間四対一で挑んだけど全敗。まあそれでムカついて全員で猛特訓して、模擬試験だけ出たんだよ。」

「そうそう!アンナがヤケになってな!まあ結果良い成績は残せたんだよな。」

一瞬、沈黙が走った。

「…今思えば、全部隊長のお陰なんじゃ。」

ミカナの言葉で私とオナットは同じ表情で向き合った。ミカナと全く同じ事を思っていたからだ。

「あいつ回りくどいんだよ。馬鹿みたいに真っ直ぐだし。」

私の言葉にミカナとオナットは笑っていた。

そして、私達はゆっくりと立ち上がった。

「…そろそろ行こっか。」

「だな。願わくば三人一緒にソウモリ村に行こうぜ。」

「当然。」

私達は再び水に足を踏み入れた。


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