#72 竜の祠
コンッコンッ
ずんださんがとある一軒家の木製扉をノックした。
中からは図太い声で「あぁぁい」と聴こえた。
扉が開くと、一筋の光が差し込み、ギィィィと音を立てる。そこには大柄の男が立っていた。
ずんださんと比較すると三倍はあるだろうか。全身の筋肉が発達しており、今にもはち切れそうな黒の服には黄色く三日月が描かれている。
「ありゃあ、ずんださんじゃねぇか!久しいな!」
「ダテ兄、お久しぶりですぅ!」
ずんださんはぴょんと飛び、二人はハイタッチを交わした。
「遠いのにわざわざどうしたっ!何やら物騒な連中も連れてるが。」
ダテ兄と呼ばれるその方は、私達の腰元の刃を見て言った。視線を感じた私は、刃をできるだけ隠した。
「ダテ兄、この人達に【竜の祠】について教えたいんだべさ。だけども、わしは詳しくわからんに。どうしたらいいべ?」
ずんださんの話を聞いたダテ兄は、一瞬驚く様子を見せた。そして、何か考え込んでいた。
「…悪い事は言わねぇ。やめときな。」
ダテ兄と呼ばれる男は、私達の方を向いて言い放った。
「…どうしてですか?」
「悪いが【竜の祠】の場所は誰にも分からねぇ。辿り着いた奴はいるだろうが、【三騎士】以外に村に帰ってきた奴は一人もいない。血縁者であるずんださんだって帰って来れるか分からないんだからな。」
「…じゃあどうすれば。」
ダテ兄は渋い顔をして、ずんださんの顔色を伺っていた。
「にしても、何故今更【三騎士】やら【竜の祠】の話題が出てるんです?ずんださん、今年で七十でしょ?この女に脅されでもしたんですか?」
チラチラとこちらを見るあたり、失礼な事を言っている自覚はあるようだ。
「いやねぇ、この方私を助けてくれたんです。見ず知らずの汚いおやじに、手を差し伸べてくれた。それにこの方は【三騎士】の伝説を知っちょった。この方にとっては、【竜の祠】の事を教えた方が一番のお返しになると思ったんじゃ。まあ危険なのは間違いないが、この方なら見つけ出しそうな気がしてなぁ。」
ずんださんは、私に優しい表情を向けた。
それを見た私は、思わずその場で跪いてしまった。そして、ずんださんの手を握った。
「…必ず見つけて、ずんださんの元へ戻ってきます。」
「ところで嬢ちゃん、どこで【三騎士】の事を耳に入れた?」
私とずんださんとの間を遮るように、ダテ兄の大きい声が飛び交った。
私はゆっくりと立ち上がり、ダテ兄の方を向いた。
「この村に入ってから、ずんださんのように苦しんでいる方を何人も見ました。その方達が色々と教えてくれましたよ。」
ダテ兄は諦めたように溜息を吐き、【三騎士】の伝説について語ってくれた。
はるか昔、ギーミャ村、サンケイ村、クシマ村に住んでいた【三騎士】は、それぞれの剣を重ね合わせ、竜の怒りを沈めた。竜は祠へ封印され、三本の剣をそこへ刺し込んだ。その三本の剣は言わば錠のようなもので、一本でも抜けば封印が解かれると言われている。そんな伝説を聞き付けた何人もの愚か者が【竜の祠】を探し求めた。しかし、そこから帰って来る者は誰一人としていなかった。【竜の祠】は、ギーミャ村、サンケイ村、クシマ村の中心に位置しており、次第にそこは【魔の三角地帯】と呼ばれるようになった。ベアの活発化の影響もあり、人が寄り付かなくなり、気が付けば、村人達は生きていく事さえ困難になっていた。
「…何が原因かは分からねぇ。【竜の祠】なのか【ベア】なのか。だが、ソウモリやアキトだけがあんな裕福なのは納得いかねぇ。お陰でこちとら、毎日生命を賭けた生活をしている。そんな所に【ベア】なんか現れてみろ、勝てれば肉は手に入るが、命を失うかもしれん。状況を打破したいのは、俺達も同じなんだよ嬢ちゃん。」
ダテ兄は、村の歴史や自身の心の奥に秘めていた思いを語ってくれた。
私は二人に提案をした。
「三人で手を組みませんか?」
二人が首を縦に振るまで、そう時間は掛からなかった。
こうして話が進む中、私の隊員達は常に不満の表情を浮かべていた。




