#70 託された意思
「……嘘だろ。」
ホウとヤマガはただ呆然と宙を浮き、私は泣き続ける事しか出来なかった。
「…センリ隊長…私達を逃がす為に。」
「…ナオ…気持ちは分かるけど急いでここを離れよう。隊長の死が無駄にならないように。」
ホウは私の腕を引き、その場を後にした。
ひたすらに飛び続けた私達にまず襲いかかったのは睡魔であった。
空は鮮やかなスカイブルーのまま、決して辺りが暗くなる事は無い。
身を隠す場所も無く、仮にどこかに身を潜めたとしても、明るい為場所を特定される可能性が高い。
睡眠を取れないこの状況こそ、まさに地獄であった。
そして、私達は大きめの岩の影に隠れた。
「私達、これからどうしたら良いのかな…。」
私は不安に駆られ、ただ地面の一点を見つめていた。
「ざっと上から眺めたが出口は見当たらなかった。そうなると出口は、此処へ来たあの場所にしか無いという事になる。」
ヤマガが言う事が正しければ、状況は更に深刻だ。アヤや村人達がいまだに追って来ない理由、私達が必ずまた現れるという確信があるからだろう。
「…二人共、これはあくまで提案なんだけど。」
ホウとヤマガは不安そうな表情でこちらを見つめる。
「…それしかないのか。」
私の提案にホウは唇を噛み締め、ヤマガはただ呆然としていた。
「…でも、もうそれしかないだろ。僕達はもうベアーズロックの一員なんだ。命を掛ける時がきたんじゃないのか?」
まさに、苦渋の選択であった。
私達三人は冷や汗をかき、胃が痛くなった。三人で肩を組みながら、重い腰を無理矢理持ち上げた。
「…私…ホウもヤマガも…大好きだよぉ…。」
「…ばか。」
ホウは私の肩を強く握った。
「…まだ死ぬと決まった訳じゃない!願わくば全員で此処を出るんだ!」
ヤマガは涙を浮かべ、手も震えていた。
声も震え、全てが現実逃避しているようにも感じられた。
何も無い綺麗な青色の空を飛び続け、元いた場所へと着実に近付いていた。
予想通り出入口の付近には、アヤや村人達が待機していた。
私達が上空から眺めていると、一人の村人が私達を指した。すると、一人、また一人と視線がこちらへと向けられた。最後に振り向いたアヤの目は、まさに人殺しの目をしていた。
「…良い?せーのっ!」
ホウの合図で私達三人は全力で羽根を動かし、出口に向かって急降下した。
私が二人に伝えた唯一の作戦。それは、出口に向かって一斉に勢い良く突撃する事だ。正直に言えば、この作戦で全員が生き残る確率はかなり低い。誰かを囮にして誰かが生存する。恨みっこなし、賭けそのものなのだ。
「あらあら。そういう事ですか。」
急降下している中、私にはアヤが余裕な笑みを浮かべているのが見えた。
「出口を全員で塞ぎなさい。」
ふと下を見た時、地面に赤黒く濁っている箇所があった。周囲には骨のようなものも転がっていた。
「…隊長っ。」
私は息を飲み、涙を流しながら再度出口の方向を向いた。
三人一斉に刃を抜き、村人達を斬りつけながら間を潜り抜けて行った。
「このまま一気に行くよっ!」
私とヤマガは同時に声を上げ、勢い良く突進した。
出口を塞いでいた村人達は四方八方に飛び散り、私は出口の中へと転がり落ちた。
その時、私はハッとして再び出入口の位置に戻った。
「ナオッ!何してんのっ!さっさと行きなっ!」
「僕達も後から追い付くからっ!」
一瞬戸惑った私だったが、二人の言葉で本来の作戦を思い出した。
私は涙を流しながら階段を駆け下りた。
「…じゃあな。ナオ。」
「…ハハッ…マジか…私とヤマガが残るか。」
残る村人は約三十名程。そして、アヤ。
「生きて帰れるとお思いでして?」
アヤの問い掛けにホウとヤマガは同時に返答した。
「「思ってねぇよッ!!」」
後に地獄の花園での争いは、各地方に大きな影響を与えた。
地獄の花園では、地上の自然の栄養素を吸い取る事が出来る為、この地方の自然の栄養素は全てソウモリ村とアキト村に送られていた。
ソウモリ村とアキト村でアンゴやイネが豊作だったのは、地獄の花園が原因だった。そしてそれを操っていたのが、道案内のアヤだったのだ。
アキト村の住人のほとんどが地獄の花園で死亡し、アキト村は廃村状態となった。
そして、地獄の花園へと向かう途中の洞窟内では、ホウとヤマガが息絶えた状態で発見された。
しかし、これらの一件を知るのは、もっと先の話……。




