#66 罪なき争い
「フンッ!ハァァァァァッ!!!」
一匹、また一匹と私はイナを斬り裂いた。
何度も同じように襲い掛かるイナを見ていると、まるで同じ事を繰り返しているように感じさせた。
斬り裂いた部位からは、紫色の血が弾け飛んでいた。
「…生臭いわね…洗って落ちるかしら。」
独り言を言いながら、私は何度も斬り続けた。
しかし、一向に終わりが見えない。
「…これじゃあキリがないわね。」
「噂通り、ホウジンゾクは馬鹿しかいないらしい。勝ち目も無いのに正義を語る愚か者め。」
「そうやって心の内では、私達の事を貶してわけね。」
「当然だ。村長の指示に従っていただけで、俺達は野生のイナゾクなのさ。野生のイナゾクは獰猛で狩りを主としている。だがそんな時、村長に遭遇し、俺達は負けた。そして、忠誠を誓った。しかし今となってその主がいない。つまり俺達は、元の野生のイナゾクに戻ったわけだ。」
「そう、それは良かったわね。でも貴方達、あのまま従っていたら死んでたわよ。」
私の言葉にイナゾクは表情が険しくなった。
「何を言うかッ!侮辱するのも大概にしろッ!」
「本当よ、村長はこれまで何匹ものイナゾクを殺してきているわ。」
そう、私は決して嘘は言っていない。
村長の正体を知っている者は、私だけだろう。
「貴様に何がわかるッ!」
「話してくれたのよ、貴方達イナゾクの事を。」
イナゾクは獰猛で卑劣な生き物だ。
村長はそれを利用し、イナゾクを働かせる事にした。
闘いに敗れたイナゾクは忠誠を誓う為、一度勝てば主が死ぬまで逆らう事はないのだ。
そんな時、私は問い掛けた。必要なくなったらどうするのかと。
「やめろッ!そんな出任せ聞きたくないわッ!」
「村長は言った。イナは食糧になると。」
「やめろと言っているのが聞こえんのかぁッ!!!」
一匹のイナゾクが刃を振り落として来た。
技量や力量、これまでのイナゾクとは訳が違った。
重い力に私は、体勢を崩し掛けていた。
間違いない。こいつが野生のイナゾクの長だ。
「貴様だけは絶対に許さんッ!我々だけでなく、村長まで侮辱しおってッ!」
「それじゃあ、決着をつけましょうか。」
互いに刃を振り払い、私とイナゾクの長は距離を取った。
「この闘いは本当に無意味な争いよ。貴方はそれでも闘うの?」
「うるせぇッ!貴様だけは絶対に殺すッ!」
再び飛び掛かって来たイナゾクの長を見て、私は目を閉じた。
───心を落ち着かせて。風よ、吹け。
「…風塵の舞。」
イナゾクの長は私の姿が消えた事に動揺していた。
そして、後方から声が聴こえ、更に動揺していた。
「…貴様…何をしたッ!」
私はゆっくりと刃を鞘に収めた。
カチャンッと音が響くと、細かい風が吹くようにイナゾクの長は全身を斬り刻まれ、紫色の血を吹き出した。
「風塵の舞は、風のように姿を晦ませ、見えない速さで斬る技。私が編み出した自己流の技だ。」
「…じ、自己流…だと……そんな奴に…イナゾク…が…。」
イナゾクの長は意識を失い、地へ落下した。
長を失った他のイナゾク達は身動きが取れずにいた。
私が視線を送るとイナゾクは怯えているように見えた。
「お前達の長は倒した!それでもまだ私に挑もうという者がいるなら出てくるが良い!何人でも相手になるぞ!」
大声で言い放つと、イナゾクは次から次へ真逆の方向へと飛んで行った。村の上を通過し、イナゾクは見えなくなる遠くまで離れて行った。
イナゾクの姿が見えなくなった時、私は隊員達が飛んで行った方向を見た。するとそこには、ヤマガ、ナオ、ホウが笑顔でこちらを見ていたのだ。
「おーい!隊長ー!お腹減ったー!」
ホウが手を振ると同時に、私は三人の元へと向かった。
「…お前達、どうして。」
「男ヤマガ!これからもセンリ隊長について行きますよ!」
「センリ隊長、ナオ達を守ってくれてありがとうございます。これからもお供します。」
「ホウも覚悟出来てる。それに今更帰れはないよ。」
私は三人の言葉に涙した。
すると、ナオは私を包み込むように抱き締めた。
「まずはご飯にしましょ。」
「…あぁ。」
この瞬間、私達は初めて、心が通じ合ったような気がした。




