#65 愛の命令
高台の棺を覗き込むヤマガ。
中が見えた途端、口元を押えて目を逸らした。
オエェェェェェェ
ヤマガの嗚咽が聴こえ、私を含めた他の隊員達もシマヌの死体を見に行く事は出来なかった。
私達が村を行き来する度、イナや村人の視線は私達に向けられていた。
「…私…もう耐えられません。」
ナオはビクビクと身体を震わせながら、周囲をチラチラと見ていた。
そんなナオを見ても、私には付き添う事しか出来なかった。
宿舎に戻り、私は隊員達をそのまま呼び、今後の話し合いを設けた。
「…シマヌが死に…私達はもう後戻り出来ない状況になった。それにシマヌは、ベアに殺された訳ではない。事故だったのかもしれないが、村長を殺した事も知っていた。身の潔白を証明しようと私達まで巻き込もうとした。彼女の死は惨いものだったが、私は贔屓目で見ても彼女は勇敢だったとは言えない。彼女の罪は彼女にしか償えない。」
「…だからってあんな死に方。」
ヤマガが円卓を強めに叩き、唇を噛みしめていた。
「そうだ。死んで良い奴などベアーズロックにはいない。しかし、イナや村人にも使命があり、それぞれの生き方がある。シマヌの仇を打った所で、何にもならない。」
私が何を言いたいのか、隊員達には見当もついて居なかった。
「…ヤマガ、ホウ、ナオ。」
私は三人全員を包み込むように抱き締めた。
「お前達は私の大切な部下だ。今夜イナや村人が寝静まった頃、村を出るんだ。そして、三人でナウチー村へ戻れ。」
三人はほぼ同時にこちらへと顔を向け、驚いた表情を見せた。
「…隊長はどうするんですか。」
冷静を装い、ヤマガが質問を返した。
「私は囮になるよ。そのままサマー軍団長の所へ直行する。だから気にせず逃げな。」
「でもっ!」
ナオが声を上げた瞬間、私は円卓を拳で思い切り叩いた。
「隊長命令だっ!」
三人は驚いた後、渋々了承してくれた。
深夜、野生動物も寝静まった頃。
「…じゃあ、気を付けてな。」
「…隊長。やっぱり私…」
ナオが何かを言おうとした時、私は人差し指をナオの口元へ当てた。
「隊長命令。必ず三人で無事にナウチー村へ帰る事。」
三人は納得していない様子だった。
しかし、半ば強引に私は三人の背中を押した。
三人が村を出た瞬間、見張りの鐘が鳴り、野生動物達の鳴き声が響き渡った。
「ベアーズロックが逃げたぞぉぉぉッ!!!」
見張りの声で一斉にイナの群勢が集まる。
そして、イナ達は羽根をバタバタと動かし、三人の元へ飛び立とうとした。
その瞬間、私は宿舎から飛び立ち、イナの軍勢の前へと立ちはだかった。
「貴様ッ!三人を連れ戻せッ!」
「…その必要は無い。私達はこの村の住人では無いのでな。村の強引な仕来りに従う義理はない。」
すると、イナの軍勢は次々と腰元から何かを抜いた。
それは木の枝の様に鋭利で、両端にはギザギザした突起が何本もあった。
「…なるほど。毒付刃と同じ理論か。そいつで斬り裂けば、突起が引っ掛かり獲物を簡単に逃がす事はないと。」
「そうだな。しかし、貴様は逃げる前にここで死ぬんだ。」
私は腹を抱えて笑った。
「何がおかしいっ!」
「すまない、あまりに理不尽な言い分で笑ってしまった。これはもう、シマヌの仇を打つ他、私に選択肢は無いな。」
私は毒付刃を抜き、イナの軍勢へ刃先を向けた。
「ベアーズロック戦闘部隊!一番隊隊長のセンリ!我が命を賭けて、貴様等を抹殺する!覚悟しろッ!」
イナの軍勢は怒りのあまり威嚇するように鳴き声を轟かせた。
────ざっと三百はいるだろうか。だが、一匹足りともここを通す訳にはいかない。
「かかってきなさいッ!」
私が動き出すと同時に、イナの軍勢も殺意の目を向けて私に飛び掛かった。




