#64 届かない謝罪
「誰だっ!村長を殺した奴は!!」
一人の村人が声を荒らげると、その場にいた者達は次々と正気に戻っていった。
第一に疑いの視線を向けられたのは、当然部外者である私達であった。
「違いますっ!私達じゃありません!」
「そうです!俺達に殺す動機なんてない!」
ナオやヤマガが弁明するも、村人達は聞く耳を持たなかった。
「罪を隠そうとする奴は全員そう言うんだ!」
気が付くと、一人何かを言えばその理論に村人全員が賛同し始めていた。
「…隊長。これキリないですよ。」
シマヌの言う通り、反論すればどうにかなる問題でも無い。しかし、黙秘を続ければ私達は罪人となってしまうだろう。かくなる上は…
「私達はッ!無実だあぁぁぁぁッ!!!」
私が大声を出すと、村人達は悲鳴をあげながら武器になりそうなものを向けてきた。
しかし、私は弁明を止めなかった。
「私達は、皆様の命を守るために此処にいます!本来の目的であるベアや鬼の存在を明らかにし、皆様に安心して過ごして頂ける環境を提供する為に私達が此処にいます!何度でも言いますっ!私達は無実ですっ!」
その言葉に手を緩める者が半数に増えた。
すると、イナが村人達の前へと出た。
「…其方達の訴えを信じる。しかし、このままでは犯人は分からないままだ。」
すると、一匹のイナが空に手を向けた。
「レイコブ・ターラー!」
徐々に雨は強くなり、一粒一粒の勢いが強くなった時だった。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛いッッ!!!!!」
レイコブ・ターラーは、イナのみが使用できる技だ。真実の雨を降らし、嘘吐き者を見つける事が出来るのだ。
真実の雨に痛みを訴えた者は、無数の棘を浴びているような状態になるらしい。
「…シマヌ…お前。」
痛みを訴えた後のシマヌの顔は蒼白くなっていた。
「…ち、違うの…じ、事故だったのよ。」
一度嘘を吐いた者を信用する者は居なかった。
「た、隊長!連隊責任よね?いや、むしろ隊長責任よね!?隊長が代わりに罰受けてよっ!」
シマヌの放った言葉にイナや村人は怒り、全員でシマヌを押さえ込んだのだ。
「やめてよっ!離しなさいっ!汚い手で私に触るなぁぁぁッッ!!!」
地面にうつ伏せ状態で押さえ付けられたシマヌは、複数のイナに押さえられていた。そして、右手の人差し指を曲がらない方向へ折り曲げたのだ。
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!」
シマヌの悲鳴を聴いた私は黙って見ている事は出来ず、仲裁に入った。
「待ってくださいッ!彼女の言う通り隊員の責任は私にもあります!私の命でどうか勘弁して頂けないだろうかっ!」
一度はこちらへと視線を向けたイナや村人だが、視線は再びシマヌへと向けられた。
「この件に関しては連隊責任などない。これは個人の問題であり、シマヌが犯した殺人だ。罪の無い人を殺し、隠蔽するのがベアーズロックの正義か?」
「…待ってください…確かにこれが本当なら許されない事をしました…ですが、彼女がやった証拠もありません!」
「何?イナゾクのレイコブ・ターラーを侮辱するのかァッ!!!」
何度弁解を繰り返しても、イナや村人は話を聞いてはくれなかった。
その後、石の高台へと運ばれ、シマヌは羽根を思い切り引っこ抜かれた。シマヌの断末魔が轟く中、私達も手を出せないよう取り押さえられた。次第に棺桶のような棺にシマヌは放り込まれてしまった。
「お願い!お願いします!許してください!シマヌの代わりに私が死にますからっ!」
私が何度懇願しても、振り返る事は無かった。
棺桶に放り込まれたシマヌの声は遠くなっていた。その為、棺桶の中は奥深くまであるのだと推測出来た。
そして、その場にいたイナの軍勢が一斉に棺桶の中へと入って行ったのだ。
シマヌの断末魔は酷く惨いものであった。
ベチャベチャと時々聴こえる音に吐気を催した。
次第にシマヌの声は聴こえなくなった。
「…裏切り者は許さない。」
一人のイナがそう言い放ち、イナや村人達はその場から離れて行った。
押さえつけていたイナや村人もいなくなり、私達は自由の身になった。しかし、私達は何も出来なかった現状に涙を流し続けた。
「…なんて…なんて無力なの…ごめん…ごめん…シマヌ…。」
届かない謝罪は、心中に残り続けていた。




