#63【第一部隊 センリ班 アキト村編】イナ
【アキト村】
人口三千人の森に囲まれた小さな村。
イネが盛んなこの村は、イネから取れた小さな種のようなものがある。それをゲンメイという。ゲンメイを鍋いっぱいに入れ、水で洗い流し、火にかける。すると、種のような硬さのあったゲンメイは、ふっくらとした柔らかい食べ物になるのだ。
ゲンメイを揉み込むと更に柔らかい食べ物に変わり、木に巻きつけて焼いて食べる事も出来るのだ。すると香ばしく、腹を満腹にしてくれる。
私達がこの村に滞在して、十日が経過した。
村に異変は無いが、ここへ来た時、村長から妙な話を聞いた。
『この村にゃ鬼が出るでな。ベアなんかより恐ろしい存在ぞよ。最近は見ねくなったが、ソウモリやテイワが危ねぇがもな。』
───鬼…用心に越したことはないわね。
「センリ隊長!本日も異常ありません。」
「うむ、ご苦労。」
毎日律儀に報告を欠かさない。坊主頭が特徴的な彼の名はヤマガ。ヤマガはホウジンゾクで一番を争う程足が速い。
「隊長〜お腹空いた〜。」
「もう少し我慢しろ。」
私に限らず誰にでも敬語を使わない彼女はホウ。彼女がベアーズロック一番隊に選ばれたのは、ずば抜けた頭の良さだ。一瞬見れば何でも暗記出来る。
「ホウ!隊長には礼儀正しくしなさい!」
ホウを叱るのは、真面目が取り柄のナオ。趣味はお菓子作りと言えるほど手先が器用だ。
「毎日毎日同じ会話して…あんた達楽しい?」
明るく平然と嫌味を言う彼女、即ち天然だ。彼女の名はシマヌ。
この四人が私の預る一番隊だ。
「…何か…ゲンメイ飽きた。」
「お腹いっぱい食べれるだけ幸せでしょ。」
間で見ているとナオがホウの母親に見えてくる。
「とっても美味しいですっ!」
「…うるさい。」
真面目なヤマガだが、シマヌの言う通り確かに少しうるさい。
だが、こうして皆で火を囲んで談笑出来るのも、もしかしたら今日で終わりかもしれない。
「隊長?どうしましたか?」
「…いや、何でもない。」
私が全員守れば良い、それだけの事だ。
翌日、私達はイネの収穫を手伝う事となった。
しかし、イネの中から現れたのは、私達と同等の大きさのイナゴだった。
「いやあぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
ナオの叫びでイネの中からは一匹、また一匹とイナゴが顔を出した。次第に私達は大勢のイナゴに囲まれていた。
戦闘態勢になる私達に臆することなくイナゴ達は迫って来た。
「私達はイナゴではない。イナだ。」
「そこじゃねえよ。」
「私達は敵では無い。ここでイネを作る手伝いをしているだけだ。」
するとイナの間から村長が現れた。
「こやつらは村の住人じゃ、そう警戒するな。見た目はただのイナゴじゃが、本当に頼りになるぞよ。」
その日の夜、大雨が降り注いだ。
村人やイナゴ達は喜び合った。
しかし、何故か大量の収穫したイネが赤く染まり始めたのだ。
「…何これ。」
不審に思った私達は、イネを全て避けた。
その中から現れたのは、息絶えた村長だった。
私達は声も出なかった。
意味不明なこの状況でも雨は振り続けていた。




