#59 金棒
「ユイッ!」
その場にはユイを襲おうとしている全身が赤い巨大な怪物が立っていた。
「隊長さんッ!助けてッ!」
赤い巨大な怪物の背中には、鬼の文字の刻印がある。
「こいつが鬼…。」
そいつは大きな棘の付いた鈍器を振り回して、木々は次から次へと倒れていった。
僕は高速移動でユイへと近付く。
しかし、それを見た鬼は声を荒げ、棘の鈍器をこちらへと振り落としてきたのだ。
間一髪避けながらも、僕は何とかユイの救出に成功した。
「隊長さん…ありがとうございます…。」
ユイは気を失った。
鬼は戦闘態勢になっていたが、僕はユイを抱えている為、その場から撤退した。
撤退する僕達を鬼はしばらく追いかけて来た。
ある程度の距離が出来ると鬼は諦めたのか追って来なくなった。
宿へ戻ると村長や村人達が帰りを待っていたかのように僕達を出迎えた。
「隊長はん!一体何があったんだべ!」
「俺達、ここから逃げた方がいいべか?」
僕はその場にいた全員に鬼が現れた事を伝えた。
一先ずユイを休ませたかった僕は、自室へと向かった。
自室に入ると手前のベッドにはエトが眠っていた。
僕はユイを窓際のベッドへと寝かせた。
「エト、遅くなってごめんな。」
眠るエトからの返事は無かった。その横を通り、僕は村長達の元へと向かった。
事の経緯を説明すると、村長達は目を見開いていた。
「なんと…そんな事があったとは…あの元気な若造達が…。」
「奴は僕達で何とかしますので、皆様は避難の準備をお願いします。」
村長や村人達は了承した。そして、僕が去ろうとした時、村長や村人は僕を呼び止めた。
そして、頭を下げた。
今回の一件だけでなく、僕達がこの村へ来た時の無礼な態度と言葉に対しての謝罪だそうだ。
「良いんです。必ず生き延びましょう。」
僕は村長や村人達と和解した。
僕は自身の部屋に戻り、外を眺めながら考え事をした。
何度も同じ事を繰り返し考えていると、気付けば辺りは真っ暗になっていた。
僕は身なりを整え、装備品を確認した。
そして、二人を起こさないよう部屋を出た。
「必ず…生きて帰るんだぞ…。」
僕の独り言が二人に届いたかなんて分からない。
でも僕が隊長でいる意味をここで示したい。
怖くないと言えば嘘になる。
正直、未だに手と足の震えが止まらない。
扉の隙間から見えた二人の寝顔は、何故か愛おしく感じた。まるで我が子でも見ているかのように。
深夜、すり足で廊下を進み、階段を降りる。
ギシギシとなる古い木で出来た床。
誰にも気付かれないようにと息を殺した。
無事宿を出た後の外の空気は、より一層美味しく感じた。
「…こんな夜遅くにどちらへ行かれる?」
僕は少し驚き、声の聴こえた右方向に顔を向けた。
そこには村長が立っていた。
「…あいつらのことよろしくお願いします。」
「お主、まさか一人で鬼とやらを倒す気ではなかろうな。」
誤魔化す事も出来た。しかし、村長の言葉に僕は返す言葉が見つからなかった。
「…わしに止める権利はない。しかしだな、隊長であるなら仲間の事も考えなくてはならんぞ。」
「充分承知しています。それにこれが、僕の答えです。」
その後、村長は何も言わずにその場を去った。
目を向けないその表情は、どこか残念そうな悲しそうな何とも言えない表情をしていた。
痛む心を抱えながら、僕は鬼のいた森へと飛び立った。
「んん……あれ…ここは。隊長…さん?」




