#58 鬼に
タイセイが亡くなって二日が経過した。
村は静まり返っている。
変異種との交戦の後、僕と隊員達で穴を掘り、タイセイの遺体はその場へ埋葬した。
村へ戻った後、村長や村人達へ状況を伝えた。人を喰らうベアであると知った村人達は次第に荷造りを始め、一人また一人と村を出て行った。
それからは謎の変異種も現れていない。
今この村には何人村人が残っているのだろうか。
「…隊長さん?お加減いかがですか?」
ユイが心配そうな声で扉越しに声を掛けてきた。
あの日から僕は部屋に閉じ篭っている。
タイセイを助けられなかった事を悔やみ、とてもじゃないが隊員達に合わせる顔がなかった。
隊員達は説明を要求した。
「…ごめん、僕のせいなんだ。」
僕はそれだけを告げ、部屋に閉じ篭ったのだ。
ユイはこうして毎日昼と夜に扉越しに声を掛けに来る。
「…隊長さん、私達待ってますから。」
ユイはそれだけを告げた。靴音が徐々に遠くなり、僕は部屋の扉をゆっくり開けた。扉の前にはパン一個とスープが置いてあった。僕はそれを手に取り、口へと運んだ。味の無い硬いパンとトマト風味のスープ、今日は何だか塩辛く感じた。
食事を終え、僕は通路を挟んだ窓から外を眺めた。
ユイやエト、リョウが三人で何処かに向かうのが見えた。
それを見届けた僕は再び扉に閉じ篭った。
しかし、その日の夕方に事件は起こった。
バンッ!と勢いよく開いた扉に驚き、僕は浅い眠りから目を覚ました。
扉の方に目を向けると傷だらけで頭から血を流しているのエトが立っていた。
「…隊長……助けて…リョウと……ユイが。」
エトはその場に倒れ込み、僕は急いで駆け寄った。
「エト!何があったんだ!」
「……鬼が……鬼が…。」
エトは力尽き、気を失った。
僕はエトを空いているベッドに寝かせ、防具を外した。
自身の防具を装着し、武器を腰元に掛けた。
────リョウ、ユイ!持ち堪えてくれ。
僕は羽根を動かし、窓から飛び出した。
日中に三人が向かった方向へと急いだ。
村からかなり離れ、僕は森を彷徨い続けていた。
「リョーウッ!ユイーッ!」
大声で呼び掛けても返事はない。
もう陽は暮れ始め、段々と辺りは暗くなってきていた。
「…まずいな。暗くなると尚更見つけられなくなる。」
僕は羽根を高速に動かし移動を再開した。
周囲を見渡しながら行くも、木々や枝ばかりが過ぎていく。
しかし、一瞬枝ではない何かが目の前を過ぎった。
それは人の顔のようにも見え、僕は急停止で戻った。
「……そんな。」
僕は膝から崩れ落ちた。
木の枝に刺さっていたのは、リョウの顔であった。
目や口は見開いたまま、最後の最後まで叫び続けていたのではないかと思わせる表情をしていた。
首からは肉の断片や血が流れ、それらは木を伝って地面にまで浸透していた。
「…まだ新しい……ユイ。」
僕はリョウの顔を枝から外し、地面に産めた。
リョウの頭部には、何か鋭利で重い何かが突き刺さった痕があった。
恐らく、そいつがエトの言っていた鬼だろう。
ユイの身が危険と思った僕は、再び森の中を飛んだ。
しばらく進むと広場に出た。
僕はその場から上空に上がり、周囲を見渡した。
すると赤い何かが森からはみ出ているのが見えた。
僕はその場へと急ぎ、急降下した。




