#56 アナザースカイ
ホウジンゾクの時速は約三十から四十キロと言われている。
ナウチー村から東北地方まで、飛び続けたとしても三日は掛かってしまう。
だがホウジンゾクにも休息は必要な為、夜には活動を終えるのが基本だ。
今回が新ベアーズロック初の遠征であり仕事だ。ベアの討伐に備え、負担の掛かりすぎには注意しなければならない。
元ベアーズロックの僕達からすれば、隊列を崩さずに飛ぶ事は容易だ。しかし、新たに加入した隊員達は、まだ不慣れな様子だ。
十時間飛び続けては休んでを繰り返し、一週間が経過した。
目の前には東北地方が広がっている。
ベアの出現場所はソウモリ村で一体、テイワ村で二体、アキト村で一体目撃されたとの事だ。
しかし、サマー軍団長はギーミャ村とサンケイ村、クシマ村への配置も指示した。
「出現したのは三つの村だが、奴等は移動が早い。既に別の箇所へ移動しているかもしれないからな。これより配置先について伝える。」
少しの間を置き、サマー軍団長は各部隊の配置先を発表した。
「第一部隊センリ班はアキト村。第二部隊イケ班はテイワ村。第三部隊ライラ班はギーミャ村。第四部隊ルイ班はサンケイ村。第五部隊キリ班はクシマ村を頼む。私は単独で東北最北のソウモリ村へと向かう。今日から一ヶ月村への住み込みでベアの調査に徹してもらう。何かが起きても起きなくても一ヶ月は必ず滞在してもらう、各部隊で助け合いながらベアの討伐に勤しんでくれ。では、健闘を祈る!」
そう言うとサマー軍団長は北へと向かって行った。
現在、我々はギーミャ村とサンケイ村、クシマ村の上空にいる。
第三部隊から第五部隊は、そのまま降下して行った。
「イケっ!死ぬんじゃねぇぞ!」
ルイが拳を僕に向けて翳した。それに対し僕も拳を向ける。
「きっしょ、熱血かよ。」
それを馬鹿にするように唾を掛けてきたのは、またしても隊員のタイセイであった。
「これよりテイワ村へと向かう。僕に着いてきてくれ。」
「悪いけど従う気無いんで。」
「俺も。」
タイセイに続いてリョウまでもが僕に対して牙を剥いた。
「…何で?」
「僕達より弱い人に何故従わないといけないんですか?」
そう言い放ち、二人は先にテイワ村の方へ飛んで行った。
「…隊長…良いんですか?」
「僕達、何も出来なくてすみません。」
ユイとエトは申し訳無さそうに僕の顔を覗き込んで来た。
「まあ好きにさせたら良いよ。ベアの恐ろしさを知らないからあんな事が出来るんだ。でも実力差を決めつけるのは良くないよね。」
僕の不敵な笑みを見た二人は、少し驚いている様子だった。
ユイとエトを連れ、僕達はテイワ村へと到着した。
村の入口に入るなり、門番をしている男に呼び止められた。
「何者だ?」
「ベアーズロック戦闘部隊です。この村の安全確保の為、ベアの討伐に参りました。」
門番の男は僕の全身を見て吹き出すように笑った。
「何か?」
「いや、こんな痩せた奴にベアを討伐出来るのかって思ってね。さっき通った二人の方がよっぽど頼りに感じたね。」
「そうでしたか。彼等も優秀な隊員ですよ、新米ですけどね。」
僕の言い方に腹を立てたのか、男は「通れ!」と仏頂面で言い放った。
僕達三人はそのまま村長の元へと挨拶に向かった。
「これはこれは、遠くからわざわざありがとうございます。私、村長のムラカミと言います。なに分ベアの出現に頭を悩ませていましてね。プロの貴方方なら間違いないと思ったのですが…」
「何か御不備でも?」
村長のムラカミは言いにくそうな表情をしていたが、次第に口を開いた。
「いえ…その…思ったより小柄な方だなと思いまして。でも先程の二人はガッチリしていましたし、きっと大丈夫ですよね?」
────ああ、またこれか。
脳内では「ダルいな」という言葉を繰り返し、この村の者たちを片っ端から刺し殺していた。
「問題ありません。見ていてください。」
村長は宿屋を確保してくれていた。
僕達三人は直ぐに宿屋で休息を取り、タイセイやリョウも夜には帰ってきた。
部屋の奥から聴こえる話し声を聞く限り、どうやら周辺の森へ捜索に行っていたようだ。口や態度は最低だが、やっている事は正しい事だ。
しかし、テイワ村に来て十日が経過した頃、事件は起こった。




