#51 また逢える日まで
航空場に到着した時、残っていた隊員が航空機から顔を出す。
「お疲れ様です…あれ?テイル隊長は?」
センリの言葉にルイやイケ、コックピットにいるライラ女王もこちらに顔を向けた。
それにサマーは死んだ魚のような顔をしている。
俺は目を背ける事しか出来なかった。
「…嘘…ですよね?」
察しの返答に俺は謝る事しか出来なかった。
そして、生気の無いサマーの腕を担ぎながら、航空機へと乗り込んだ。
「…何があったんです?」
「…実は。」
俺は何があったかを包み隠さず全て話した。
「そんな…セイラさんまで…。」
「じゃああそこで大暴れしてるのが、ヤマだっていうのか!」
俺はふとイケに目を向けた。しかし、イケも驚いた表情を見せていた。それもそのはず、ヤマは目の前でベアに食われたのだから。
「取り込み中悪いけど、そろそろ行くわよ。何か迫って来てるわ。」
俺はゆっくり動く航空機の入口から顔を出し、周囲を見渡した。二百メートル程の距離だろうか、豆粒のようにしか見えないが何かがこちらに向かって来ているのはわかった。
「…ライラ女王、急いで飛ばしてくれ。」
「わかりました…でも、間に合うかしら。」
「何かあればその時は俺が援護する。」
残された隊員は、サマー、ライラ女王、キリ、イケ、ルイ、センリ、そして俺のたった七名。
ここを逃げ切れば全てが終わる。
この戦争に終止符を打てるのだ。
「にしても、四天王の存在が厄介だな。」
俺はふとサマーを見た。
本来なら俺とサマーで闘いたい所だが、万が一どちらも死ぬような事になれば残された隊員達はどうする。
「飛ぶよッ!」
航空機は徐々に速度を上げ、迫って来ている何かに向かって行った。そして、接触する前に宙に浮き、航空機は空へと昇った。
俺は恐る恐る地上を見下ろした。
そこには一体の変異種がこちらを眺めていた。
そのベアの見た目は、まるでライオンのようであった。
…ん?一体?
気づいた時にはもう遅かった。
航空機に何かが乗っかったのか、左右に大きく揺れ始めた。
「な、なんだっ!」
「イマ隊長っ!あれっ!」
キリは航空機の羽を指した。そこには、羽にしがみ付く影のような靄の掛かった何かがいた。
「…あいつ、カエデとアユを殺したベアだ。」
キリの表情は次第に憎しみへと変わった。
そんなキリの肩に俺は手を置いた。
俺は何も言わず、そのままサマー目の前に立った。
サマーの視界に入るようしゃがみ込み、目を合わせた。
「第二部隊隊長リトル・サマー、お前をベアーズロックの新たな軍団長へと任命する。」
俺の言葉は、サマーを正気に戻した。
そして、何かを発する前に抱き締めた。
「お前はもう軍団長だ。この場にいる皆を安全な所に導くんだ。俺はどうやらやり残した事がまだあるようなんでな。」
サマーは恐らく俺を止めようとした。
でも、止めることを止めたのだと思う。
何故なら、俺は今最高の気持ちだからだ。
「ベアーズロック戦闘部隊第一部隊隊長!これより、四天王であろう二体の変異種の討伐に向かいます!残された隊員の健闘を祈る!」
俺は思い切り航空機の扉を開いた。
振り返ると他の隊員達は風圧で吹き飛ばされ、座ったまま動けなくなっていた。
「…じゃあな。」
俺は航空機から身を投げ出して、羽の上にいる影のベアへと斬りかかった。
刃が通り、真っ黒な身体から赤い血を吹き出す。
キリが言うには、暗闇に溶け込み、カエデが何も出来ずに死んだと言っていた。
「ならば、お前の弱点は光。ここはまだ夕陽に照らされているからな、お前を斬れるわけだ。」
俺は高速移動で何度も影のベアを斬りさいた。
しかし、影のベアは自身の影を伸ばし、俺の身体を縛り付けた。影を縛れば、本体も動けなくなるらしい。
すると、影のベアの背後からまた何者かが現れたのだ。
「そう簡単に逃がさないぜぇぇぇっ!!!」
空中から現れたのはライオンに小さな羽が生えている怪物。いや、正確に言えば、羽と何かが背中にいるのだ。
「…マジか、両方来れんのかよ。」
しかし、その怪物は押し飛ばされた。
振り向いたそいつの顔は、才能があるのにいつも怯えている奴の顔だった。
「イケェェェッ!!!!!」
イケは怪物を押さえ付けるように雲の中へと消えた。
「ヒャハッ!お前は追いかけられないよな!今地上にいけば光は消える!つまりお前の勝機はゼロになるもんな!お前は俺様に囚われたまま死んでいくのさ、あの時の雌豚のように!」
俺は己の後輩も守ってやる事が出来なかった。
無惨な死を遂げた仲間達の為に、違う形でも花をくべてやりたい。
それが俺のやり方だ。
俺は影のベアに縛られた状態のまま、影のベアへと突っ込んだ。
そして、俺と影のベアも雲の中へと入った。
「イマァァァァァッ!イケェェェェェッ!」
「…そんな。」
サマーの声は虚しく、風圧で消え去ってしまった。
突然仲間を失う事は日常茶飯事であった。
しかし、今回は誰しもが予想外であった。
隊員達は全員、唇を噛み締めて、目を隠して、深く深く涙を流したのだ。




