#50 最高の戦士達
「ケシマ村で生まれた子が何故裏切りの血筋があるのか。それはテイル隊長と同様、ホウジンゾクとベアのハーフだからなんです。」
つまり、シオナやオリカもベアになろうと思えばなれるという事らしい。セイラはそれを阻止すべく、二人を殺害した。
「だが、テイルは殺す必要無かったんじゃないのか…」
「テイル隊長が心の底から更生しても、血筋には勝てないんですよ。それにベアだってお腹は空くんです。我を忘れて、いつ襲い掛かるか分からない。テイル隊長も分かっていたんですよ。だから皆さんと過ごす未来を夢見ていたんだと思います。テイル隊長も此処に残るつもりで居たと思いますよ。」
そして、セイラは何かを思い出したかのように、再び話を進めた。
「残っているケシマ村の出身者は私とヤマです。ですが、ヤマは百獣のベアによって変異種に姿を変えられました。なので、私がベアに変化して時間を稼ぎます。」
「駄目だ!セイラも一緒に逃げるよ!」
「サマーさん、話聞いてました?私は行けません、此処でお別れです。」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だっ!」
子供のように駄々をこねるサマーは久しぶりだ。
セイラはそれを懐かしそうに見ていた。
ドガァァァァァァァァァァァァンンッッ!!!
王都サホロの方向から何かが暴れ回る音が響き渡る。
そのベアは、この位置からでも見える程に大きかった。
恐らく、今までのベアの中でも最上級の大きさだ。
「何だよあれ…」
「あれが変異種へと姿を変えたヤマ、叛逆のベアです。」
セイラの言う叛逆のベアは、自身の意思で暴れているようには見えなかった。苦しみに耐えきれず暴れ回っているような、叛逆というより藻掻いているようだ。
「…ヤマが苦しんでいる。」
まるでベアの言葉を理解しているように、サマーは当然のように呟いた。
「…裏切りたくなくても裏切らないといけない。それがケシマ村の謎の血筋なんですよ。裏切りによって大切な人を失い、号泣しながら笑う者もいました。だから、私とヤマでケシマ村の歴史を終わらせます。」
セイラは全身の力を解放し、白く神々しいベアへと姿を変えた。
それはまさに【天使】という言葉が相応しい。
そして、セイラはそのまま叛逆のベアの元へと羽ばたいて行ってしまった。
サマーは何度もセイラを呼び続けていた。
喉が枯れ痛む程に。
それを押さえ付けるように止める俺は一生恨まれるかもしれない。
だが、これで良い。
輝かしい未来を見る為に、セイラの意思を尊重する為に。
現軍団長として、最善の判断をしたと断言出来る。
俺はサマーの腹部を殴り、気絶させた。
テイルの死体を横目で見送り、その場を立ち去った。
「じゃあな…最高の戦士達…。」




