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ベアーズロック-神々の晩餐-  作者: ゆる


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#49 今を生きること


「…これはどういう事だ。」

俺とテイルは、ボロボロの身体を支え合いながら島全体を眺めていた。

一体のベアを筆頭に無数のベア達が迷いの森へと向かっていたのだ。


「森へ帰っている。もしかすると…」

俺とテイルは顔を見合せた。

誰かが王のベアを討伐したのではないか、そう思った。

「ではさっきのサイレン、やはり航空場からか。」

「生存者を集めて別の島へ逃げるんじゃないですか?」

「急ごう。」

俺とテイルは、航空場のあるセトチに向かった。


航空場に着くと、そこには顔見知りの面子がいた。

「イマッ!テイルッ!無事だったのか!」

俺達の元へサマーが近付いて来る。

「…相変わらずうるせぇ声だな。」

「ええ、本当に。」

サマーは涙を流しながら俺達に飛び付いてきた。


サマーに聞くと、今ここにいる面子が確認できているので生存者だと言う。

航空機に乗り込み、安全地帯へ脱出する作戦のようだ。

「私はこれから、残っている者がいないか最終確認へ向かう。他の皆は航空機に乗り込んでくれ、ライラは操縦の準備を。」

俺は指示をして立ち去ろうとしたサマーの手を掴む。

「何?」

「俺も行く。」

「僕も行きますよ。」

サマーは何も言わなかった。

第一部隊、第二部隊、第三部隊の隊長が再集結した瞬間だった。

俺達は小さな喜びを噛み締め、生存者の最終確認へ向かった。


上空から様子を見ていると、無数のベアはぞろぞろと森へ入って行く。

サマーに聞くと、今いる面子は王のベアとは接触していないと言う。

「…となると他の誰かがやったのか。」

「だとしたら、大した隊員ですね。生きていれば昇格間違いなしですよ。」

「昇格も降格もあるものか。もうベアーズロックは無くなるんだよ。」

サマーの言葉に俺達は賛同した。

理由なんか無い。平和な世の中になるのであれば、ベアーズロックという組織は必要無くなるのだ。

俺達に残るのは、形の無い栄光だけだ。

「でも、新しい街では街を守る部隊くらいあるんじゃないですかね?今度は皆でそれに入りましょうよ。」

テイルの提案に俺とサマーは笑った。

馬鹿にしたのではない。内心嬉しかったのだ。

そんな平和で幸せな世の中が戻ってくるだけでも、俺は幸せに思えた。


「…て、あれ!」

テイルが地上を指した。

そこには、傷だらけのセイラがゆっくりと歩いて居たのだ。

「セイラッ!」

俺達は大急ぎでセイラの元へと向かった。


俺達を見たセイラは驚いていた。

「…サマーさんにイマ隊長…それにテイル隊長まで。」

「無事で良かった。これから航空機で脱出する所なんだ、急いで向かおう。」

サマーはセイラの手を引こうとした。

しかし、セイラは首を横に振った。

「…セイラ?ど、どうした?」


「私はもう皆さんとは行動出来ないのです。」


セイラはゆっくりと刃を抜いた。

「…この血は、シオナとオリカのものです。彼女達は私が殺しました。」

サマーはゆっくりと手を離した。

「…何故殺したのか話せるか?」

セイラは反応しなかった。

しかし、次の瞬間…

「…こういうことです。」


一瞬の出来事だった。

セイラの抜いた刃は、テイルの心臓の位置を貫いていた。

「テイルッ!」

俺はテイルに駆け寄り、サマーはセイラを取り押さえた。

「何をしている!何をしているセイラッ!」

「ケシマ村の出身者は殺さなければいけないんですッ!絶対に絶対に殺さないとッ!」

「何故そんな事にこだわる!」


「…セイラの…言う通り…ですよ。」

テイルは倒れ込んだ状態で、苦痛表情を浮かべる。

「テイル、もう話すな。」

「ケシマ村の…出身者は…裏切りの…。」

テイルは、何度も血を吐き、呼吸困難な状態が続いた。

何度も声を掛けるが、段々と意識が遠のいているようだった。

「…あぁ…もうちょっと…だったのに。」

「テイルっ!大丈夫だ!必ず脱出しよう!」

「皆と…また…生きたかった…。」

俺は溢れる程の涙を流した。

それを拭うような仕草を最後に、テイルは息を引き取った。


俺の心を見通すように、空は曇天へと変わった。悲痛な叫びと同時に、雨が降り注ぐ。テイルの血は洗い流せても、俺達の心は洗い流せなかった。


「…仕方なかったんです。」

俺は殺意を押し殺しながら、セイラに詰め寄った。

テイルまでも認めた、ケシマ村の出身者の裏切りとは何なのか。

すると、セイラはケシマ村出身者の真実を語り始めた。


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