#48 簒奪
「私は…まだ死ぬ訳にはいかないの。王のベアとして、まだまだ子供達を産み続けなければいけないの。だからお願い…アキ…見逃して…。」
エアは涙を流した。
今の姿こそ、彼女そのもの。
飛行のベアもエアももういない。
「お前の産んだベアが俺達を、島の民を襲ったんだろ!過去に人間がした事は謝るよ、でもだからと言ってホウジンゾクを襲って良いって事にはならないだろ!」
「私は…何も指示なんかしてない。」
彼女は、ベアを産む事しか出来ない。
事前情報でもそう書かれていた。
「この子達は、本能で生きている。身の危険を感じれば、腹が減れば襲う事だってあるの。」
「それを許せって?見逃せって?そんなのむちゃくちゃだろ!」
「むちゃくちゃなのはどっちよ!私達を殺す為にくだらない兵団なんか作って!少しくらい生かしてくれたっていいじゃない!私達だって生き物なのよ…。」
生き物、その言葉に少し息を飲んだ。
人間は、言葉を話す。
知能が発達している。
そのお陰で時代は進歩した。
しかし、それは人間にしか利の無い事。
都市を発展させれば自然が減る。
これは当然の事なのだ。
本来言葉を話せない生物を前に、人間はどうしている。
野生生物達の感情を考えた事があるだろうか。
いや、ないだろう。
人間が心から動物を愛する時は、その生き物が家族になった時だけだ。
あとは他人同然、結局人間とは己の事しか考えられないのだ。
「…わかった。」
僕は刃を捨て、エアを抱き締めた。
「但し一つ、提案がある。」
エアは耳を傾けた。
一度は驚いた表情を見せたが、次第に彼女は涙を流しながら頷いた。
【簒奪】
僕は、エアを脅し、ベアの王位を継承した。
正確に言えば、脅したていだ。
結局僕には、余程の理由がない限り、生き物を傷つける事が出来ない。
良く言えば優しい、悪く言えば意気地無しだ。
でも、それで良い。
僕は、エアをその場から逃がした。
ホウジンゾクを襲う全てのベアを引き連れ、森で穏やかに過ごす事を条件に。
僕が犠牲になれば、この戦争は終止符を打つ。
そう思ったんだ。
これが、これこそが、僕の闘い方なのだ。
そして僕は、王のベアとなった。
この時、湖にクッシーがいるように見えたのは幻だろう。
この結果をクッシーが望んでいたかは分からない。
もしかしたら、誰しもが予想外と思っているかもしれない。
でも、それでも…
僕がこの世界を何度も何度もやり直したとしても、必ずこの展開を迎えるだろう。心の底からそう思った。




