#46 飛翔
「私がこの竜巻を止める。」
「何言ってるの!そんな事できるわけ……」
私はハッとした。
エンドラが何をしようとしているのか悟ったのだ。
「駄目、絶対駄目!あんた、龍の力を使おうとしてるだろ!」
エンドラは微笑みながら、右手を差し出した。その右手は既に龍の手に変わっていた。
「龍の力はどんな技をも上回るのよ。私が犠牲になって、奴を止めるわ。」
次の瞬間、エンドラは私の身体を強く押した。
「さっさと逃げてくださいません?邪魔で仕方ありませんわ。」
私は、何も言えなくなってしまった。
砂の竜巻は草木を吹き飛ばしながら、こちらへゆっくりと近付いて来る。
時々目に入る砂の痛みより、私はエンドラとの別れの方が辛かった。
「…気が変わったりはしないの?」
エンドラは無反応だった。
「…そっか…貴方には…本当に感謝している。」
「何よ突然。私があの程度で死ぬとでも?」
エンドラの手は僅かに震えていた。
「…必ず…勝つから。」
私は涙を堪えきれなかった。
エンドラが帰ってくると信じたい。
だが、お互いもう分かっている。
「…馬鹿ね。これが終わったら追い掛けるから。」
私は頷き、エンドラへ背を向けた。
「…あんたは最高の親友だよ。」
私は羽根を動かし、空へと飛び上がった。
そして、こちらを見ていた隊員達を無理矢理引き連れ、その場から立ち去った。
「サマー隊長!エンドラ隊長は!」
俺の言葉にサマー隊長は何も返さなかった。
センリは僕の左肩に手を置き、それ以上言うなと言うように無言で合図した。
顔こそ見せなかったが、サマー隊長とライラ女王は泣いていた。
「…さて。」
「お前まさか龍の継承者か?」
「そうですが何か?」
私が龍の継承者だと知った瞬間、黄土色のベアはやや焦りを見せた。
「な、なぁ契約しないか?」
「それはどのような契約内容ですの?」
「お、俺と仲間になるってのはどうだ?勿論、お前を裏切ったりしないぜ。」
「まぁそれは素敵ですね!」
私は手を合わせて褒め讃えた。
「だ、だろ!?そしたら…」
「でも、私は貴方を裏切りますよ?」
黄土色のベアは唖然とした表情を見せた。
その瞬間、私は龍の力を解放した。
全身が龍の姿になるまでそう時間は掛からない。
私は龍の姿で蒼い炎を吹いた。
黄土色のベアが逃げようとした時、私は黄土色のベアを右手で掴んだ。
大きな龍の手で掴んだ黄土色のベアは、かなり小さく見えた。
「ま、ま、待ってくれっ!いくら俺でも、龍には勝てっこねぇ!あの竜巻に巻き込まれて死んじまうぞっ!」
「鼻から生き残ろうなんて気はありませんのよ。念には念を…私が貴方を道連れに致しますわ。地獄の底までお付き合いくださいませ。」
私は黄土色のベアを鷲掴みにしたまま、竜巻へと向かった。
「な、なぁ!話し合おうぜ!龍の継承者でもあの竜巻には敵わない!無駄死にするだけだぜ?」
「では、あの竜巻はどうすれば止まりますの?誰かが巻き込まれるしか無いんではなくて?」
黄土色のベアは何も言えなくなっていた。
図星だったのだろう。
しかし、なんの問題も無い。
私はその可能性も見据えて此処に残ったのだから。
その後、黄土色のベアが何を訴えても、私は翼を休めなかった。
砂の大竜巻に飲み込まれた時、全身に刻まれる鋭い痛みを感じ取った。私の皮膚は厚く出来ているが、元の姿ではすぐに刻まれるだろう。現に黄土色のベアは既に刻まれ、私の手元から離れていた。
───自分の技で死ぬなんて、なんて情けないのかしら。
私は抵抗を止めた。
龍の皮膚が少しずつ剥がれていくのが分かる。
呆気なく死んだ黄土色のベアも、技量だけで言えば先代とやらより遥かに強い。四天王と言うだけのことはあるだろう。
「でもね…私に出会ったのが…運の尽きですわ…。」
砂の竜巻は徐々に落ち着き、次第に消えていった。
竜巻が消えた時、私の意識はほぼ無かった。
龍の姿で上空から逆さに落ちるのは初めてだった。
全身の痛みももう感じなくなっていた。
力も全く入らない。
でも、何故か私は清々しく感じたのだった。




