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ベアーズロック-神々の晩餐-  作者: ゆる


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43/61

#41 またあの場所で

⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯


「大きくなったら、絶対ベアーズロックに入るんだっ!悪者をバッサバッサって斬るのっ!」

「そうか!アキはまだ小さいのに夢があって良いな!」

「うんっ!!」


⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯

なんて事を子供の頃によく言っていた。

この記憶に登場する相手は、恐らく父親だ。

顔が真っ黒でどんな表情をしているのか分からない。

僕は父親に会った事がないのだ。

母さんに聞いてもハッキリ教えてくれた事は無かった。でも、決して離婚をしたとは言わなかった。最終的には、遠くへ仕事へ行ったと言っていた。

子供には、それが真実としか思えなかった。

そんな僕も夢を叶えられる歳になった。

だが、父さんが何処にいるのか、もしくは死んでいるのか、未だに分からない。

でも、これだけは誓った。

ベアーズロック戦闘部隊として、命を懸けて仲間やこの街を守ると。

僕は今、自分に出来ることをやり遂げる。そして、いつか父さんを探しに行く。




閉じていた目には僅かに光が差し込む。

そして、木の葉のガサガサという音が聴こえ、僕は目を開けた。

警戒しながら周囲を見渡すも、森に住む野鳥がやって来ただけだった。

安心した僕は、両手を上げ背伸びをした。

昨日イマ隊長とテイル隊長を残して、僕達は東の森へと入った。最初は全員一緒に行動していたのだが、どうやらはぐれてしまったようだ。

この森はとにかく深い。テイル隊長のような嗅覚や勘が無ければ、到底抜け出すのは困難だ。とはいえ、ベアーズロックは何度もこの森には入っていた。正直、慣れていると言えばそれまでだが、不思議な事にこの森は景色をも変えてしまう。

結果、誰とも会えないまま朝を迎えてしまった。

そこら辺に眠る事も出来ず、大きな木の上で睡眠を取った。ここ数日、あまり眠れていなかったせいか、今は物凄く身体が軽い。

今日は空中を飛んで、皆を探そうと僕は羽根を動かした。

しかし、上空から見下ろしても木の葉で覆い隠されてしまい、はっきりと下が見えないのが難点だ。


「…にしても見え無さすぎだな…仕方ない、低空飛行にしよう。」


僕は再び森の中へと入り、飛行しながら森の中の移動を始めた。

移動を続けて一時間近くが経過しても、未だに誰とも会えずにいた。

しかし、右方向から何かの叫び声が聴こえた。

僕はその方向へ急いで向かった。


森を抜けるとそこには、湖が広がっていた。

その湖の中心には古城があり、僕はその場所に一度訪れた事があった。

「…ここは、エアと出会った古城。」

僕は再び羽根を動かし、古城の入口へと向かった。

古城の扉は木で出来ており、脆い状態だ。

心做しか、以前よりも脆い気がした。

扉を開け中に入ると、上の階から何やら物音が聴こえた。

僕はゆっくりと足を進めた。


上の階の扉を開け内部を覗くとそこには赤い帽子を被り、青いジャケットを羽織ったベアがいた。

僕はそのベアを知っている。

そして、このベアが王のベアなのだと悟った。

僕はずっと前から王のベアと遭遇している。

今思い返せば、合致する点がある。

王のベアがいる所には、やたらとベアが集まる。

それは変異種だけでなく、雑魚ベアも含めてだ。

王のベアが呼び寄せていたのではないか?


僕はゆっくりと扉を開け、毒付刃を抜いた。

そして、刃を向けた時、彼女は振り返った。


「…ずっと騙していたのか?」

「…いつから気付いたの?」

「たった今さ、まだ分からない事ばかりだけど。」

「…そう…もうあの頃には戻れないわね。」


この湖は、幻想空間にあるクッシャオ湖。

クッシーが作り出した過去に存在した湖。

その空間に導いたのは、クッシー自身だ。


「…何故あの時、クッシーはお前が王のベアだと言わなかったんだ。」

「…クッシーは現実には存在しない。幻想空間で生み出された架空の存在なの。幻想は所詮幻想、誰かを導く事で精一杯なのよ。」

「だから僕とお前をここに呼び込んだとでも?」

「さぁ、どうかしらね。私もまさかあの時貴方と出会うとは思ってなかったもの。咄嗟の芝居で何とかなったと思ったけど、そうじゃなかったのね。」

「…クッシーはどうしたんだ。」


僕の言葉に彼女は湖を指した。

その方向には、湖に浮かぶ大きな岩のようなものが見えた。

しかし、その岩の周りは赤く黒く染っている。


「…お前…まさか。」

「ええ、殺したわ。」


僕は許せなかった。

裏切られた事もクッシーを殺した事も何もかも許せなかった。

だから、彼女へ斬りかかった。


もう彼女は、エアでは無い。


僕達の知るエアは、もうこの世には存在しないのだ。

飛行のベアなんて存在しなかった。

彼女こそが、正真正銘の王のベアなのだ。


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