#41 またあの場所で
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「大きくなったら、絶対ベアーズロックに入るんだっ!悪者をバッサバッサって斬るのっ!」
「そうか!アキはまだ小さいのに夢があって良いな!」
「うんっ!!」
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なんて事を子供の頃によく言っていた。
この記憶に登場する相手は、恐らく父親だ。
顔が真っ黒でどんな表情をしているのか分からない。
僕は父親に会った事がないのだ。
母さんに聞いてもハッキリ教えてくれた事は無かった。でも、決して離婚をしたとは言わなかった。最終的には、遠くへ仕事へ行ったと言っていた。
子供には、それが真実としか思えなかった。
そんな僕も夢を叶えられる歳になった。
だが、父さんが何処にいるのか、もしくは死んでいるのか、未だに分からない。
でも、これだけは誓った。
ベアーズロック戦闘部隊として、命を懸けて仲間やこの街を守ると。
僕は今、自分に出来ることをやり遂げる。そして、いつか父さんを探しに行く。
閉じていた目には僅かに光が差し込む。
そして、木の葉のガサガサという音が聴こえ、僕は目を開けた。
警戒しながら周囲を見渡すも、森に住む野鳥がやって来ただけだった。
安心した僕は、両手を上げ背伸びをした。
昨日イマ隊長とテイル隊長を残して、僕達は東の森へと入った。最初は全員一緒に行動していたのだが、どうやらはぐれてしまったようだ。
この森はとにかく深い。テイル隊長のような嗅覚や勘が無ければ、到底抜け出すのは困難だ。とはいえ、ベアーズロックは何度もこの森には入っていた。正直、慣れていると言えばそれまでだが、不思議な事にこの森は景色をも変えてしまう。
結果、誰とも会えないまま朝を迎えてしまった。
そこら辺に眠る事も出来ず、大きな木の上で睡眠を取った。ここ数日、あまり眠れていなかったせいか、今は物凄く身体が軽い。
今日は空中を飛んで、皆を探そうと僕は羽根を動かした。
しかし、上空から見下ろしても木の葉で覆い隠されてしまい、はっきりと下が見えないのが難点だ。
「…にしても見え無さすぎだな…仕方ない、低空飛行にしよう。」
僕は再び森の中へと入り、飛行しながら森の中の移動を始めた。
移動を続けて一時間近くが経過しても、未だに誰とも会えずにいた。
しかし、右方向から何かの叫び声が聴こえた。
僕はその方向へ急いで向かった。
森を抜けるとそこには、湖が広がっていた。
その湖の中心には古城があり、僕はその場所に一度訪れた事があった。
「…ここは、エアと出会った古城。」
僕は再び羽根を動かし、古城の入口へと向かった。
古城の扉は木で出来ており、脆い状態だ。
心做しか、以前よりも脆い気がした。
扉を開け中に入ると、上の階から何やら物音が聴こえた。
僕はゆっくりと足を進めた。
上の階の扉を開け内部を覗くとそこには赤い帽子を被り、青いジャケットを羽織ったベアがいた。
僕はそのベアを知っている。
そして、このベアが王のベアなのだと悟った。
僕はずっと前から王のベアと遭遇している。
今思い返せば、合致する点がある。
王のベアがいる所には、やたらとベアが集まる。
それは変異種だけでなく、雑魚ベアも含めてだ。
王のベアが呼び寄せていたのではないか?
僕はゆっくりと扉を開け、毒付刃を抜いた。
そして、刃を向けた時、彼女は振り返った。
「…ずっと騙していたのか?」
「…いつから気付いたの?」
「たった今さ、まだ分からない事ばかりだけど。」
「…そう…もうあの頃には戻れないわね。」
この湖は、幻想空間にあるクッシャオ湖。
クッシーが作り出した過去に存在した湖。
その空間に導いたのは、クッシー自身だ。
「…何故あの時、クッシーはお前が王のベアだと言わなかったんだ。」
「…クッシーは現実には存在しない。幻想空間で生み出された架空の存在なの。幻想は所詮幻想、誰かを導く事で精一杯なのよ。」
「だから僕とお前をここに呼び込んだとでも?」
「さぁ、どうかしらね。私もまさかあの時貴方と出会うとは思ってなかったもの。咄嗟の芝居で何とかなったと思ったけど、そうじゃなかったのね。」
「…クッシーはどうしたんだ。」
僕の言葉に彼女は湖を指した。
その方向には、湖に浮かぶ大きな岩のようなものが見えた。
しかし、その岩の周りは赤く黒く染っている。
「…お前…まさか。」
「ええ、殺したわ。」
僕は許せなかった。
裏切られた事もクッシーを殺した事も何もかも許せなかった。
だから、彼女へ斬りかかった。
もう彼女は、エアでは無い。
僕達の知るエアは、もうこの世には存在しないのだ。
飛行のベアなんて存在しなかった。
彼女こそが、正真正銘の王のベアなのだ。




