#39 バジリスク
僕は全身の力を解放した。
もう僕の身体の中には、ベアの力は残されていない。
ベア族の血は流れているが、ホウジンゾクの血も流れている。残りの人生はホウジンゾクのテイルとして生きる。
僕はもう、そう決心した。
蛇の能力に恵まれた僕が全身の力を解放した時、全身が蛇のような肌になる。そして、王冠のように髪の毛が形を変える。その姿はまるで【蛇】と【鶏】の混合した大型の未確認生物だ。
その名も【バジリスク】、伝説の生物と言われている。
僕は昔、母からその力を継承したのだ。
僕の親は王のベアなんかじゃない、ホウジンゾクの母だけだ。
「…そんなに見つめられちゃ照れちゃうよ。」
僕を囲む一列目のベア。僕は一列目のベアの目を見た。
するとベアは一匹、また一匹と硬化して倒れていった。
雑魚ベア達は動揺していた。
それもそのはず、僕にこんな力があるなんて知らないのだから。
「…全員硬化させるなんて容易いんだよ。」
雑魚ベア達は、念話で話し合いを求めてきた。
しかし、僕は聞く耳を持たず、次々と硬化を進めた。
破壊された壁の外にいた雑魚ベアは、それを見て森へと引き返して行った。
そして、この場に残されたベアは狂のベアと謎の猿ベアのみとなった。
先程から硬化を試しているが、流石は変異種と言ったところか。全く硬化が効かないようだ。そうなると、一人で二体を相手は厳しい。
「テイル隊長!」
「…ヤマ。」
ヤマはどこか嬉しそうな表情を見せ、涙ぐんでいた。
「信じていました。」
「情けない先輩でごめんな。」
ヤマ、君を助けたのがほんの数年前なんて嘘みたいだ。
もう立派な戦闘部隊だ。
直接伝えようかとも思ったが、僕には僕の使命がある。
「ヤマ、他の隊員を連れて東の森に行きなさい。軍団長はそこに向かいましたよ。王のベアはそこにいるはずです。」
「テイル隊長はどうするんですか!」
「ヤマ、僕にはやるべき事が残っている。頼んだぞ。」
その後、イケやルイもやって来た。
彼等は少しの間だが面倒を見た隊員。
涙を流す彼等を抱き締め、僕は猿のベアのいる時計城へと急いだ。
時計城前に辿り着くと、猿のベアは時計城からこちらを見下ろしていた。
そして、時計城の前にはそれを見つめるイマと数名の隊員がいた。
「…イマ隊長。」
イマ隊長は無言で振り向いた。
「…本当にすみませんでした。軍団長にお許しを頂き、交戦に参加させて頂きました。」
しかし、イマ隊長は不気味にも微笑んだ。
「雑魚ベアを追い払ったのはお前だろ?誤ちを自ら精算したんだ、何の問題もない。軍団長が許したなら、俺は何も言わん。」
そして、僕の肩に手を置き、「おかえり」と呟いた。
僕はイマ隊長が軍団長と重なって見えた。
僕は何も言えず、また涙を流した。
「そんな姿で泣くんじゃねぇよ。怖いわ。」
「…あなた達が優しすぎるんですよ。」
僕は涙を拭い、改めて向き直った。
「…イマ隊長にお願いがあります。」
「全隊員に告ぐッ!!!」
イマ隊長の声は、王都サホロ中に響き渡った。
イマ隊長のこんな大声初めて聞いた。
「新軍団長として命令するッ!俺とテイル以外の隊長、隊員は東の森に急げッ!王のベアを仕留めろッ!今すぐに羽根を動かせッ!そして、生き抜くんだッ!」
イマ隊長が声を荒らげた瞬間、猿のベアと狂のベアが同時に動き出した。
「サマーッ!エンドラッ!隊員を連れて早く王都を出るんだッ!」
イマ隊長の声で我に返ったのか、サマーさんとエンドラさんは間一髪、狂のベアの攻撃を避けた。そして、そのまま各隊員に合図を送り、エンドラさんと隊員達は王都サホロを飛び立った。
「…死ぬんじゃないよ。もう助けられないんだから。」
サマー隊長は、塀の上に残されたライラ女王の元へと行き、二人で東の森へと向かった。
「…これで良かったのか?」
「ええ、ありがとうございます。イマ隊長も早く逃げて下さい。」
「…馬鹿たれ。こんな状況を放って逃げられるかよ。それに俺はお前の上司だからな。」
「…お人好しすぎて死んでも知りませんからね。」
僕の言葉にイマ隊長はニヤリと笑った。
そして、イマ隊長は狂のベアの元へ行き、僕は猿のベアと向き直った。
───てめぇが裏切り者のテイルか。てめぇの裏切りのせいで、産まれたばかりの俺様が何故こんな所に来なきゃならん。腹立つ腹立つ腹立つッ!絶対にてめぇを殺して食ってやるッ!そのバジリスクの力も貰ってやるッ!
猿のベアは念話で話しかけてきた。
どうやらかなりご立腹の様子だ。
しかし、僕は念話ではなく、ホウジンゾクの言葉として返した。
「うるさい、ばーか。」
僕の舐めた態度にしびれを切らしたのか、猿のベアは奇声を上げて、僕へと飛び掛ってきた。
僕はバジリスクの力を解放し、立ち向かった。




