#38 最後の忠誠
東の入口付近では、リトル・サマー隊長とエンドラ隊長が狂のベアと交戦中。
一方、時計城で新たに現れた謎の生命体。イマ隊長を先頭にセイラさん、アユ、キリ、カエデが交戦中。
次々と王都内へ侵入してくる雑魚ベアは、軍団長の指揮の元、残ったベアーズロック戦闘部隊で交戦中。僕、ヤマ、イケ、ルイ、シオナ、オリカ、センリも参加している。
「エアッ!雑魚ベアはどんな状況だッ!」
エアの反応はなかった。
止むを得ず僕も羽根を動かし近付いた。
しかし、エアはそれにも反応せずにいた。
覗き込むと、青ざめた表情をしていた。
エアの見下ろす方向を見ると、そこには恐ろしい光景があった。
それは、終わりの見えない長蛇の列。
草原の緑のようにベアの黒や茶の毛色が森の奥まで続いていたのだ。
「…こんなの相手にしてたらキリが無いぞ。」
「…まずは王のベアを倒さないと。永遠に雑魚ベアが増え続ける。それにあの時計を破壊した変異種、恐らくベアよ。前に言ったと思うけど、稀に変異種が生まれるのよ。今回はそれに当たってしまった。」
「でも、王のベアがどこにいるか分かるのか?」
エアは首を横に振った。
「…でも彼なら分かるかもしれない。」
エアの言う彼、それは言わずとも分かった。
僕とエアは、地下牢へと向かった。
王都サホロ内で響き渡る断末魔。
塀の上にいても聴こえてくる。
ここまで生き残ってきた隊員達も次々とベアに喰われていく。
力では勝っている。
しかし、圧倒的数で劣っているのだ。
戦力のある五十人と無数のベア。
傍から見れば勝ち目などない。
しかし、兆しが見えるとすればなんだ。
変異種を全滅させる事だ。
残る変異種はテイルを除いてあと二体。あの手足の長い猿のような生命体を含めるのならあと三体。
残る隊員はざっと三十人。
かなり絶望的な状況だ。
私に今出来る事は何だ。
「各隊員ッ!最後の指示を出すッ!各自最善を尽くし、生き残るのだッ!」
考えた末、私は大声で指示を出した。
返事は無いが、全隊員に聴こえているはずだ。
そして、私は空中移動をして、イマの元へと向かった。
「…軍団長。」
「イマ、本日より私の後任をお前に託す。新軍団長として皆を引っ張って行ってくれ。」
「…待ってください!それでは、軍団長はどうするのですか!」
「私は…私なりの正義を貫く。では、頼んだぞ。」
私はイマの呼び止める声を無視して地下牢へと急いだ。
地下牢の階段を降りて行くとそこにはアキとエアがいた。
「ここで何をしている?」
「…軍団長。」
何も話さなくても分かっている。
彼等も気付いたのであろう。
「アキ、エア。お前達は変異種や雑魚ベアの討伐に迎え。こいつの事は私が引き受ける。」
「ですが、軍団長!王のベアを倒さなければ…」
「分かっている。だから、ここにいる。」
私は半ば強引に牢屋からテイルを連れ出した。
地下牢から出てすぐその場を飛び立ち、王都サホロ上空まで昇った。
「…何の真似ですか?」
テイルは一切目を合わせない。
「私の目を見れるか?」
テイルはチラッと私を見て、再び目を逸らした。
「お前がベア族と知った時は正直驚いた。裏切り者と思われても仕方の無い事だ。」
「…何ですか…この場に来て説教ですか?」
「違う。お前がベア族だろうとなんだろうと、お前は私の部下だ。部下ならこの状況を打開する方法を教えてくれないか?一つの案で今までの事をチャラにしてやってもかまわん。」
気が付けば、テイルは号泣していた。
冷静沈着で蛇とまで言われた彼が涙を流した。
彼もまだ二十代。短い期間でも違う種族でも、近くにいた存在の我々を裏切ってしまったという重圧がしんどかったのだろう。
だったらまた、彼を仲間として受け入れる。
それが私の軍団長としての最後の務めだ。
私はそっとテイルの頭に手を置き、「おかえり」と伝えた。
テイルからの返答は無かったが、何度も頷いてくれていた。
「さぁ、三番隊隊長。何をしたら良い?」
テイルは涙を拭って、東の森を指した。
テイルが言うには、森の何処かに王のベアがいると言う。その場所はテイルにも分からない。王のベアとは、念話で話した事があるだけで、実際に会った事は無いとの事だ。
「なるほど。では、私は東の森に向かうとしよう。テイルはどうする?」
「…僕はやり残した事があります。申し訳ありませんが、此処に残ります。王のベア探しは軍団長にお任せします。決してお邪魔はしません。」
「そうか。」
余計な詮索はしない。
テイルは、何か考えがあるように感じた。
そして、私は王のベア探しへと東の森へと迎った。
僕は地上へと降り、雑魚ベアに殺された隊員の元へと向かった。
その場でしゃがみ、僕は手を合わせた。
「…すまなかった。君の刃を僕に託してくれ。必ず、責任はとるよ。」
隊員の手から毒付刃を取り、僕は久しぶりに刃を構えた。
「…軍団長。最後に忠誠を誓います。」
これまで上手く誤魔化していたつもりだ。
僕はベアを斬った事は無い。
隊員達に全て任せていたからだ。
しかし、もう言い訳は出来ない。
僕は生まれて初めて、ベアに刃を向けた。
雑魚ベアの首に刃を刺した僕を無数のベアが動きを止めて見つめていた。
───何故だ!テイル!
───恨み続けたホウジンゾクを漸く殺せるのだぞ!
───だから言ったんだよ!こいつは危ないって!
───大丈夫だ!全員で襲えばテイルにも勝てる!
───そうだ!裏切り者を殺せ!
雑魚ベアの念話が僕の脳裏にも過ぎる。
【裏切り者】
「…僕はどこに居ても裏切り者なんだな。」
何故だろう。僕は何故か気に入ってしまった。
「自分のケツは自分で拭く。てめぇら全員掛かってこいやぁぁぁぁぁッッ!!!」
僕の叫びは王都サホロに響き渡った。
イマやサマー、エンドラにも届いただろう。
裏切り者の忠誠を披露します。




