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#3 ホウジンゾクー憧れは恨みへと変わるー


王都サホロ【ベアーズロック本拠地】


「避難民これだけか?ほとんど子供しか居ねぇじゃねぇか。」

「予想外の襲撃だったそうだ。無防備な所を襲われたら手も足も出ないさ。」

「モルイ村は予想外だったな。そもそもどこから湧き出やがったんだ?」

「分からないそうだ。イマ隊長を先頭に一番隊が捜索しているらしいが…。」


呑気なものだ。所詮他人は他人というのが言葉や態度を見ていれば丸わかりだ。己が同じ立場にならないと僕達避難民の気持ちなんて分かるはずがない。


「にしても、この子達は皆モルイ村の出身者なのか?」

「いや、モルイ村出身は四人だけだ。他はケシマ村やビラコ村の避難民だ。」

「何!?ケシマ村もビラコ村もやられたのか!?」

「今やその三つの村は壊滅状態らしい。復興は厳しく、そのまま廃村になるそうだ。両親だけでなく、故郷も失うなんて…可哀想に…。」


その言葉を聞いて、僕の横に座っている少年がベアーズロックの隊員の会話に口を挟んだ。

「他人事のように言ってるけど、あんたらも今に喰われるぜ。」

少年の言葉に一人の隊員の表情が変わった。しびれを切らしたのかテント内へと入って来た。

「何だと?助けて貰っただけ有難いと思えよ?何も出来ないガキが、偉そうに語ってんじゃねぇッ!」

大の大人が本気で怒りをぶつけていた。しかし、それを見て誰一人避難民は怯えてなどいなかった。そう、僕達はもっと恐ろしい光景を目の当たりにしているからだ。避難民の鋭い視線に勘づいたのか、その隊員の怒りは更にエスカレートした。

「何だその目はッ!助けてやった恩も知らないでッ!」

少年は胸ぐらを掴まれ、僅かばかり宙に浮いていた。

「おい、もうやめろよ…。」

もう一人の隊員が必死に止めるも、頭に血が昇った隊員を止める事は出来なかった。一人の少年に手をあげようとしたその時、テントの外から声が掛かった。

「子供相手に何ムキになってるのさ。お前は胸ぐらを掴める程の業績を残したのか?」

長い白髪に左眼が覆い隠されている。鋭い目つきに異様な圧を子供ながらに感じ取った。

「…テイル隊長…す、すみません…これは…。」

先程までの威勢はどこかへ行き、隊員は怯えていた。

「うちの馬鹿がすまないね。これは私の監督不行届だね。君達がベアーズロックに入った暁には、是非私の三番隊に来るといい。稽古を付けてあげよう。」

この人が三番隊隊長のテイル。別名、蛇の道とも呼ばれている。

「おい、貴様ら。暇なら刃でも振ってきたらどうだ?それさえも私の見張りが無いといけないかい?」

「「ハッ!稽古に行って参りますッ!」」

テイルの言葉に冷や汗をかき、二人の隊員はその場から去って行った。

すると、テイルは反発した少年へと近付いた。

「君、名前は何と言う。」

「…ヤマ。」

「ヤマか。君は良い目をしている。きっと素晴らしい隊員になるだろう。その日が来るのを楽しみにしている。」

ヤマと名乗る少年は、決してベアーズロックへの入隊を希望した訳ではない。だが、テイルとの出会いによって彼の運命は大きく変わる。この時の僕には、まだ知る由もない。


「一同ッ!整列ッ!」

『ハッ!』

僕達避難民は、現在ベアーズロックの訓練の見学に来ている。村や住処が無くなった今、僕達には二つの選択肢が与えられる。

一つ、王都サホロでの保護施設へと入る。しかし、入所だけでも高額な為、大金持ちでない限り容易ではない。生活に困らない環境での学業に専念出来る。十八歳になるまで働く事はない。

二つ、ベアーズロック内での雑用をこなす。業績次第でベアーズロックへの入隊も許可されるらしい。そして、隙間時間で学業と両立する。金銭的心配はなく、生活に困らない程度の環境の提供が約束される。

二つの選択肢と言ったが、僕達に実質選択権等ない。僕達は避難民、金銭等は全く持っていないからだ。財産を売り渡し、施設に入所する事も出来るが、僕達の村は壊滅状態だ。だからこうしてベアーズロックの見学に来ているのだ。


「本日は避難民が見学に来ている!情けない姿は見せないように!各々指定の配置に着き、ベア討伐に向けて鍛えろ!全てはホウジンゾクのために!」


『ホウジンゾクのためにッ!』


壇上に立つガタイのいい短髪の中年は、ベアーズロックの全て隊員をまとめている軍団長だ。

「避難民の諸君、初めまして。私はベアーズロック軍団長のシロだ。よろしく頼む。見ての通り、今は訓練に徹している。君達もベアーズロックに入る際は、己の命と引き換えに、忠誠を誓うのだ。」


「何のために訓練するんですか?」


僕は、心の中で思っていた事をつい声に出してしまった。

周りの避難民や隊員は驚いた表情を浮かべていた。


「ベアに勝つためだ。それ以上でもそれ以下でもない。君達が故郷を壊されたように、私にも故郷が無い。かつてはベアーズロックに憧れを抱いていたが、入団する時には既に恨みへと変わっていた。理想を抱くも、夢を持つも自由。だが、どちらにせよベアを完全討伐しない事には何も変わらない。」

軍団長のシロは、死んだ魚のような目で僕の事を見つめてきた。

「…君は何を望む。何の為に生存したと思う。」

悔しくも軍団長の質問に答える返事は一つしか無かった。

「母さんを殺したベアを許さない。僕は必ずベアを全て討伐する。」

「それが君の恨みであり、望み。それを叶える為にはこのベアーズロックに入るしかない。その目に焼き付けておくと良い。」

僕の決意は昔から変わらない。憧れであったベアーズロックに入り、母さんの仇を打つ。しかし、この時は軍団長の誘いにまんまと引っかかってしまった気分だった。


同日夕方、訓練は終了した。今日は偶然にもベアの出現や討伐の報告日であった。報告日には、訓練の最後に各部隊の隊長が宣言することになっている。


「一番隊隊長、イマです。先日、我々は突如ベアによる襲撃のあったモルイ村、ケシマ村、ビラコ村周辺の捜索に出ました。しかし、一頭のベアも見つからず捜索は断念となりました。しかし、周辺の足跡や爪痕を見た所、異例の大きさである事が判明しました。推測に過ぎませんが、新種のベアではないかと。」


イマ隊長の報告に隊員達はザワザワとし始めた。

「静かに。次、二番隊。」


「二番隊隊長、リトルサマーです。我々は三番隊と共に王都周辺の捜索に出向きました。三つの村から逃亡したベアがこちらに向かって来ると想定したのですが、見つかったベアはたった一頭でした。一番隊の報告にあったような異例の大きさではなく、これまで見たベアと同種と思われます。」

「三番隊隊長、テイル。二番隊との報告と異なる点として、逃亡した同種のベアの解剖で一つ妙な事が分かりました。」


軍団長のシロは、テイルに鋭い目線を向けた。

「何だ、言ってみろ。」


「脳の大きさが異常でした。これまでのベアとは比べ物にならないくらいに。そして、一人の隊員からこんな報告もありました。ベアが言葉を喋っていたと。」


テイルの報告に、隊員達は再びザワザワと話し始めた。


「静粛に。テイル、それは確かか?ベアが言葉を発したと言ったのは誰だ?」

「五番隊所属のダンカンという隊員です。」

「五番隊隊員、ダンカン。前に出ろ。」


軍団長シロの言葉に反応し、ダンカンさんは『ハッ!』と全隊員の前へと出た。


「ダンカン、詳しく話してもらおうか。」


「ハッ!私はモルイ村へ花の運搬に出向いていました!その際にベアの襲撃に居合わせ、数人の子供の救助へと移りました!一人の少年を救助した際、言葉を話すベアに遭遇致しました!そのベアは、まるで少年の母親のような口調で、以前から少年の母親であるような素振りをしていました!」


「ダンカンは村の住人と交流があった為にその異変に気付いたと?その少年とは、この避難民の中にいるか?」

「ハッ!」

返事と共にダンカンさんは、僕へと視線を向けた。心配そうに見つめるその瞳の奥には、思い出させたくないというダンカンさんの優しさを感じ取った。

しかし、視線を向けた事で、軍団長にはその少年が僕と分かってしまった。

「…君がその現場に居合わせた少年…なるほど。」

軍団長のなるほどという言葉の真意は、恐らく目であろう。

ヤマという少年も三番隊隊長のテイルに同じ事を言われていた。


『良い目をしている。』と。


「…思い出したくないだろうが、教えてくれないか。本当にベアが言葉を発したのか?」


僕はその時の出来事を全て話す事にした。

一人で抱え込む事が辛くなったのも理由の一つだが、今の僕が持っていても何も出来ない情報だからだ。

だから僕は、軍団長の質問に首を縦に振った。


「…他に何か気になる事はあったか?」


「…家の中が血塗れになっていた。そこに母さんじゃなく、ベアがいた。ベアは母さんと同じように料理をしていて、帰宅した僕に話しかけてきたんだ。」

当時の事を思い返すと、冷や汗をかきながら身体が震え始めてしまった。

「…そしたらベアが料理を出してきたんだ。お皿には真っ赤なスープに腕と足がささっていて…よく見たらその腕と足は…」

必死に話す僕を見て軍団長は僕の肩に手を置いた。


「もういい、すまない。話してくれてありがとう。」


僕は過呼吸になりかけていた。軍団長の言葉で、少しずつ呼吸を整えていった。


「聞いての通り、少年の遭遇したベアは変異種のようだ。イマ隊長の言っていた新種のベアの可能性が非常に高い。話を聞く限り、新種のベアは少年の母親を捕食している。これは推測だが、脳と心臓を食らい、少年の母親に擬態したのかもしれぬ。」


軍団長の推測は、隊員達を動揺させた。


「明日から私は一番隊、二番隊と共に行動する。一番隊と二番隊は新種のベアについて調査を続けていく。三番隊、四番隊はベアの襲撃に備えろ。五番隊は住民や避難民の防衛に務めよ。以上!」


『ハッ!』


こうして、ベアーズロックでの一日が終わった。

僕達避難民は五番隊隊員に連れられ、ベアーズロック内の宿舎へと戻った。


次回もお楽しみに!

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