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ベアーズロック-神々の晩餐-  作者: ゆる


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39/42

#37 分岐点


「ライラッ!ここは危ないッ!」

「ええっでも…。」

ライラは時計城の方を向いていた。

時計城の中心には大きな星柄の時計が付いている。

刻一刻と時刻が進む中、時計の長針に手足の長い何かが見えた。

それはベアのようにも見えるが、人間のようにも見える。

風があたり茶色の毛が靡く。不気味な目付きのそれは、なんと時計城の時計を取り外したのだ。

そして、時計を真っ二つに折ってしまった。

「…そんな…あの時計が無いと。」

ライラはその場に跪いた。

しかし、感傷に浸る余裕は無かった。

私達の後方から狂のベアが迫って来ていたのだ。

「ライラッ!逃げるよッ!」

反応の無いライラを私は担いで飛び立った。

「やめてっ!サマーっ!離してっ!」

「うるさいっ!こんな所であんたまで死んだらこの先皆どうするんだよっ!」

「もう時を戻せないのに、何でそんなに余裕なのっ!」

私は地上から少し離れた所で羽根を動かしたまま止まった。

「…本来、時は戻せない。本当の私達は随分前に死んでいるんだよ。」

私の言葉にライラの怒りはエスカレートした。

「そんな事分かっているわよ!でも、何度も何度もやり直してやっとここまで来たんじゃない!たった一回の人生でベアに勝てると思ってるの!?」

「…勝てるかどうかじゃない。勝てないなら勝てないでそれが運命なんだよ。」

───私は、何故弱気になっているのだろう。

そんな事言っていたら、私達に命を預けていた民の仇は誰が撃つ。


私は高速で羽根を動かした。

塀の上からベアの様子を伺っている軍団長の元へと行き、ライラを預けた。

「待ってッ!サマーッ!どこ行くのっ!」

「…ライラ…ありがとうね。」

私は塀から飛び降り、逆さ状態で落下した。

目を閉じて、これまであった事を思い返した。

何度痛い思いをした事だろう。


逆さ状態のまま親から授かった羽根を存分に動かし、私は大回転しながら移動をした。

「走馬灯にはまだ早いよっ!」

私はそのまま上空へと昇った。

上空から見下ろすベア達は滑稽に思えた。

次は私の番かもしれないっていうのに。

狂のベアが壊した壁からは、雑魚ベアがどんどん乗り込んできていた。

「…まさに地獄…いや、天国か。」

襲い掛かる恐怖に、私はワクワクした。

分散しながら、高速移動でベアの首や目をただひたすらに斬って行った。

他の隊員達も頑張ってくれているようで、私への負担はほぼなかった。

そして、ついに奴と対面した。


『キャアアアオォォォォォォォォッッ!!!』


思わず耳を塞いでしまう程の奇声。

私は初めて足が震えた。

手を添えても全く収まらない。


────でも、嬉しかった。


「…ははっ…参ったね。初めてベアが怖いと感じたよ。」

「助太刀するぞッ!サマーッ!」

そいつは狂のベアの頬を刃の腹で思い切り叩いたのだ。

「マエキヨッ!駄目だッ!そいつに近付くな!」

私が声を掛けたばかりに、マエキヨは一瞬隙を見せてしまった。

狂のベアに捕まり、目の前で握り潰され、最終的には狂のベアの腹の中へと運ばれた。

「…やっと…全員生き残ったのに。」

すると、崩れ落ち掛けた私の肩に誰かが手を置いた。

振り返るとそこには、エンドラが立っていた。

「泣くなんてあなたらしくないわね。」

「…情けないよな。この場に来て、ビビっちゃってさ。」

「えぇ、情けないですわ。そんなくだらない事でウジウジしてる貴方は、一体誰ですの?」

エンドラの言葉で私の涙は止まった。

腹が立った?

いや、違う。

エンドラは、からかったわけではない。

その証拠に彼女は悲しそうな表情を浮かべていたからだ。

「…誰だって?そりゃ酷いだろ。リトル・サマーなんて名前、この世に一人しかいないよ。」

私が微笑むとエンドラも笑みを見せた。

そして、私の背中に手を乗せた。

その手は物凄く熱く、重みを感じた。

「ちょっと、エンドラッ!何してんの!」

「気合いを入れてあげたのよ。感謝しなさい。」

エンドラは私と横並びになり、「行くよ」と一言だけ言い放った。

「言われなくても!」

私達は狂のベアに向かって飛び立った。


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