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ベアーズロック-神々の晩餐-  作者: ゆる


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#36 知らない世界


ライラ女王を救い出した後、私達は王都サホロの修復に専念した。門を直し、幾つかの建物を再建した。

地下室は無事であった為、テイルは地下牢へと入った。

ライラ女王と顔を合わせた時、思わずハイタッチをしてしまった。

それを見た他の隊員は驚いていた。

「皆の驚いた顔、傑作ね。」

「呑気なもんだよな。私達の苦労も知らないで。」

私とライラ女王は、高らかに笑った。

「ライラ女王…うちのサマーが御無礼を…。」

軍団長の言葉にライラは「問題ない」と手で合図した。

六十四回の旅は、確かに辛く険しい旅だった。

しかし、私とライラの絆はより深まった。

「…これで終わったのかな。」

私は空を眺めながらライラに話しかけた。

「終わったと思いたいわね。ここから先の未来は私にも分からないわ。本来この場で死ぬはずだった者が今この地に立っている。それだけでもう、未来は明るいと思いたいじゃない。」

ライラの言う通りだ。

正直、もう何度も過去を行き来するのは御免だ。

ライラは「確かに」と微笑んだ。

透き通る程の青い空は、どこまでも続いていた。

時折流れる白い雲は、まるで私達のようにゆっくりと泳ぎ続けていた。




私は今、尋問室にいる。

正確に言えば、尋問件拷問部屋だ。

今回の尋問は、私とイマが担当している。

「…テイル。何故こんな事をした。」

イマによる尋問が始まった。

「…。」

当然テイルは黙秘を続けた。

黙秘を続ければどうなるか自分でも分かっているはずなのに。

しかし、彼は蛇と言われる程に先を読んで行動する。

これも何かの策略なのか。

何故囚われているはずなのに、こんなにも私達を不安にさせるのだろうか。

「…テイル。黙秘を続ければどうなるか分かるよな。」

テイルは黙秘を続けていた。

そして、溜息をついたイマが私に目線で合図を送った。

私はペンチを持ち、テイルの右手人差し指の爪を剥がした。

「…んンォ…んッ”!!! ォォンオッ”!!!」

爪を剥がされれば誰でも悶絶してしまう。

ジンジンと痛みに耐えながら息が荒れる。

それでも彼は、真実を話さなかった。

気が付けば、彼の手足の爪は全て無くなっていた。

流石の蛇も目に涙を浮かべていた。

「…テイル。話してくれ。」

これ以上黙秘を続ければ、次は指か…それとも目や耳なんて事も有り得る。

彼が一番嫌がる部位を私は良く知っている。

私はバーなどでよく使用されるアイスピックを取り出した。

「…サマー、何をしようとしている。」

「これを取り出して指や耳にいくと思う?」

私はイマの説得を無視し、テイルの髪の毛を思い切り引いた。そして、天井を向いた状態のまま耳元で囁いた。

「そろそろ話してくれないと。目ん玉、取っちゃうよ?私が躊躇しないの知ってるよね?元仲間だろうがなんだろうが関係ない。試しに一つ出してみる?」

「嫌、やめろッ!やめてやめてやめてッ!話すッ!話しますからッ!」

私はその場に立ったまま、彼の話を聞く事にした。


「…そもそも私は、ホウジンゾクではありません。貴方達が見てきたベア、私を含め群がるベア達はベア族と言います。所謂、人の姿からベアに姿を変えられる者を変異種と言い、私はその内の一体。始まりのベアとも言われる残虐のベアなのです。」

私とイマは至って冷静であった。今更驚く事は何も無いからだ。イマが「それで?」と聞き返し、テイルは話を再開した。

「全ての始まりは、一九四七年。私はその時、王都サホロ近くの森で暮らしていました。当時は食べ物も無く、一日一食食べれれば良い方でした。人間の知能の発達により、街は活性化しました。石や硝子で出来た無数の建物、車とか言う車輪を用いた移動手段などもありました。人間にとっては過ごしやすく、快適な街だったと思います。ですが街の活性化により、大気汚染が発生したのです。大気汚染は森にまで充満し、多くの自然や動物達を殺しました。私も当時は苦しみに耐えながら生きていました。そして思ったのです。残虐非道な人間を喰おうと。」


テイルはイマを真っ直ぐ見つめて語っている。

辺りが静まり返っているのに対し、その静けさこそ彼の語る過去は真実味が増しているように感じた。


「森のベア達を集め、私は当時のサホロへと入りました。私達が現れただけで、人間達はパニック状態。慌てて逃げる者もいれば、ゆっくり後退りする者もいました。これは本能的な話ですが、慌てて逃げる者を逆に追いたくなる習性がありまして。私達は人間を食い荒らしました。人間の国を壊し、ベアの国を作ろうとしたのです。私は復讐が叶ったと思い、苦しむ人間達を眺めながら高らかに笑いました。ですが、予想外な事が一つ発生しました。」

「…人類の生き残りとホウジンゾクの誕生だな?」

一切の間をおかず、イマは話を続けた。

それに対し、テイルも深く頷いた。

「全ての人間を食い尽くしたと思ったんです。ですが人間は知恵を絞り、恐怖に耐えながら我々から身を隠しながら逃れていたのです。これは脅威だと思いました。」

「人間がホウジンゾクへと姿を変えた理由。一説あるが、ベアへの対抗意識の念から発生したものらしい。一人の男がホウジンゾクへと姿を変え、人間の女と交尾をした。すると誕生したのは、人間ではなくホウジンゾクだった。強い血筋という事もあるだろうが、歴代のホウジンゾクは子作りに力を入れたと言われている。」

テイルは苦笑しながら再び語り出す。

「…知ってますよ。どれだけ調べたと思っているんですか。同時に嫉妬もしましたよ。王のベアは何時間も掛けて一体ずつ産むのに対して、ホウジンゾクは一度に千以上もの子を産めるじゃないですか。だからすぐに新たな人類として復興できた訳ですよ。」


その後も尋問は続いた。

テイル自身が残虐のベアという事は、野に放たれているベアはあと二体。

最も狂暴なベアとベアを産み続けるベア。

王のベアを討伐しなければベアは永遠に生まれ続ける。基本生まれるのは雑魚ベアだが、新たな変異種が生まれてしまう可能性もある。

逆に狂のベアは後回しにすると厄介。ホウジンゾクの消滅だけでなく、地形までも変わる可能性がある。

どちらにせよ、答えは一つしかなかった。




「では、二つの班に分かれて討伐するしかないな。編成は後ほど検討しよう。一先ず御苦労だった。」

私とイマはテイルの尋問内容について、軍団長への報告を終えた。

「さて、一旦休もうかな。眠くないけど身体が限界だ。」

私は背伸びをしながらイマに語り掛けた。

しかし、イマは私の話を聞かず、東の方向を見ていた。そこには崩壊した家などあるが、あとは壁しかない。

「どうしたのさ。」

「…何か聴こえないか?」

私は耳をすませた。

すると、何かが近付いてくる音が聴こえた。

それは、徐々に近付いて来ているようだった。

私が気が付いた時には、他のホウジンゾクもイマと同じ方向を見ていた。

そして、次の瞬間だった。



『ウガアァァァァァァァァァァァァァッッ!!!』



王都サホロを囲む東の壁が破壊された。

土埃から姿を現したのは、以前アキ達が遭遇したと言われる狂のベアだった。

しかし、この世界線では狂のベアには誰も遭遇していないのだ。


「狂のベアだあぁぁぁぁッ!!!!!」


私は全員に聴こえるよう無駄に大きな声で叫んだ。

狂のベアと言えば、最も危険なベアとも伝わる。

それに作戦はもう決まっている。


「刃を取れッ!予定の作戦を決行へと移す!各部隊、羽根を動かせッ!」

軍団長の命令に全隊員が「ハッ!」と返事をし、羽根を高速で動かし始めた。

これは大きな分岐点となる。

私は二番隊の数名に行動指示をした。

私は別行動とし、時計城近辺にいるライラの元へと急いだ。


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