#35 小さな夏のひととき
目を覚ますと、そこはベアーズロック戦闘部隊朝礼の場だった。
右にはイマが、左にはテイルがいる。
更にその横にはエンドラ、そしてマエキヨ。
各隊長の後ろには多くの兵隊が整列している。
───皆、生きている。ライラ女王の話は本当だったんだ。
この日から私は、ライラ女王の言う事に従う事を決意した。
私は必要以上に全隊員との交流を深めた。
後々救助した避難民には、アキやヤマ達がいた。
避難民の能力チェック、そして試験。
前回と違う点、それはアキとイケだった。
二人は問題なく試験を乗り越え、地下帝国行きになる事はなかった。
しかし、何故かヤマだけが地下帝国へと送られてしまう。
何度も何度も繰り返したが、ヤマだけは絶対に地下帝国へ行ってしまうのだ。
不審に思った私は、軍団長を問い詰めた。
軍団長の右腕と言われた時、それは判明したのだ。
それはヤマの素行問題とケシマ村出身というたったそれだけの理由だった。
ケシマ村出身者が何故懸念されるのか。それは環境や育ちの問題という事もあるだろう。極端に田舎で不便が関係しているのか、親の問題なのかは分からない。しかし、今の年代は特に素行に問題のある者が多かったのだ。
シオナやオリカが地下帝国行きにならなかったのは、比較的扱いやすかったからだそうだ。ルイは、どのルートを進んでもテイルによって始末されてしまう。いつかはシオナやオリカも地下帝国送りとなり、性奴隷にするつもりだと後々知った。
それから私は、ケシマ村出身者を全員引き取った。全員訓練し、文句なしの戦闘隊員へと仕上げた。
だが、ヤマの地下帝国行きだけは避けられなかった。
そして、最終的には全員が死んでしまった。
アキを助けようとすれば、初回の私が知る展開になってしまう。
キリの面倒を見れば、アキとヤマの関係性が悪くなってしまった。
イケ、センリ、アユ、カエデ。この四人の誰かに寄り添えば、二つのグループが出来てしまった。つまり、対立と言った方が早いだろう。
避難民は全員で協力しなければ、あの最悪の展開を乗り越える事は出来ないだろう。
そうなると、アキ、ヤマ、キリの地下帝国行きは絶対的に必要な条件となってしまうのだ。
他の七人も各部隊に配属が言い渡される。
───私が避難民担当になれば良いのか?
そう思った私は、残された七人の避難民を受け持つ事を申し出た。
「ハハッどうしたんだサマー!避難民達に特別な思いでもあるのか?」
「マエキヨ!きっと発情期ですのよ!」
「サマー隊長、そこまでいくとフォロー出来ないですよ?」
「……。」
生きているマエキヨにエンドラ。
裏切り者のテイルに、変わらず無口なイマ。
この時が一番幸せだったのかもしれないな。
「…死んで欲しくないだけさ。皆で生きて、ベアを滅ぼすんだ。」
私は思わず本音で語ってしまった。
ふざけたり誤魔化したりする私を期待していたのか、各隊長達はポカンと口を開いていた。
気まづくなった私は、そっとその場を去った。
この時だった、私がテイルに騙されてしまったのは。
テイルは私の様子が変だと近付き、変に気を使い始めた。
───もしかして、私の思いが通じたのか!?
初めはそう思った。
しかし、真相は違った。
避難民を強くされると困るから…と私の首を斬り落としたのだ。
そして、結果はまた同じ。
幸いライラ女王と接触していた私は、殺された瞬間に時間を戻してもらい、無事また最初の整列箇所へと戻れたのだ。
次はテイルを信用せずに進めた。
七人の避難民を戦闘隊員へと仕上げ、地下帝国からアキとキリも戻った。
後にヤマとも合流し、全避難民を残した状態で時計城へ向かう点まで進む事が出来たのだ。
しかし、運命には抗えなかった。
ライラ女王に辿り着く頃には、何故か私一人になってしまうのだ。
「…何で?さっきまで全員生きてたのに。」
「…サマー。」
私は、何度も何度も繰り返した。
何度も何度もライラに殺してもらい。
何度も何度も歯車を戻してもらった。
そして、巻き戻しによるやり直しが六十四回目を迎えた時だった。
ベアーズロック戦闘部隊、約五十名を生存させる事に成功したのだ。
軍団長や各部隊隊長も生きており、避難民も生きている。
残すベアは無数の雑魚ベア、王のベア、残虐のベア、狂のベア。
そして、裏切り者のテイル。
始めて私達ベアーズロックに勝機が見えた瞬間だった。
「総員、最終命令を下す!隠れている裏切り者のテイルと雑魚ベアを殲滅せよ!そして、時計城のライラ女王を救い出すのだ!」
軍団長の声は王都サホロに響き渡り、私達ベアーズロックの士気を上げた。
高い塀から飛び降りる私達は、この瞬間始めて飛べたような気がした。
数十匹のベアを討伐し、テイルを生け捕りに。
私にとっても、ベアーズロックにとっても、全ホウジンゾクにとっても最高の展開を迎えた。
…そのはずだった。




