#34 もう一度、あの日へ。
「…何で…何でこうなった…私達はどこで間違った。」
ここは、時計城の最上階。
私の目の前には、アキ、セイラ、エア、キリの死体が転がっている。
かと言う私も既にボロボロな状態、膝を着いているのがやっとだ。
「何故こうなった、そんな顔をしていますね。」
「…ライラ女王。」
私は左腕の傷を押さえながらライラ女王の顔を見上げる。
「…貴方もそっち側ですか。」
私はライラ女王も裏切り者だと思っていた。
しかし、ライラ女王は首を左右に振った。
そして、最上階の窓から街を見下ろした。
「…私は何度もこの光景を見てきました。これで何度目になるか分かりません。今闘っている彼も、時期に命を落とします。」
私は、ライラ女王が何を言っているのか分からなかった。
「…もうこの展開になると、どうやってもテイル隊長を倒す事は出来ないのです。」
「ライラ女王が何を言っているのか分かりかねますが、その事と私達を傷付ける事に意味はあるのでしょうか。」
ライラ女王は、切ない表情を浮かべながら再び外を見た。
「…こうして貴方に問い詰められるのも何回目でしょう。まあ良いです、今回は違う点もありますし。」
ライラ女王はゆっくりと私に近付き、私の頭に手を当てた。そして、緑色の光が放たれた。
「…これで貴方の脳内には、今回の記憶は残されたままになります。」
「…何を言って。」
「リトル・サマー、私ライラは元々ベアーズロックの戦闘部隊だったのです。本来この国にベアーズロックなどは存在せず、テイルが初代女王を捕食し、初代王として王都サホロの頂点に立っていたのです。ですが、彼は何度も国民を危険に晒し、自身の欲を満たす事を優先していたのです。それに何度も時間を遡る内に、テイルはベアの先祖という事が判明しました。ベアの襲撃により、毎回王都サホロは崩壊し、ホウジンゾクは絶滅してしまった。」
私は全く話についていけなかった。
それに気が付いたのか、ライラ女王は話すのを止めた。
私はゆっくりと立ち上がり、ライラ女王の横まで歩みを進めた。
窓を見下ろすと、テイルがベアの姿へと変化し、イマに襲い掛かっていたのだ。
「イマッ!」
私は思わず、窓に手を当てて声を上げた。
次第にイマはテイルの手に捕まれ、ゆっくりと肉を食われていた。
この場にいてもイマの叫び声が響いて聴こえる。
今すぐにでも助けに行きたかった。
何度も窓を壊そうとしたが、特別製で頑丈に出来た窓は破壊出来なかった。それに最上階から地上に出るまではかなりの時間を要する。
つまり助ける手段は何も無いのだ。
「…これでこの世に残ったホウジンゾクは、私とサマーだけになりました。今や他の村の民も無数のベアに捕食されている事でしょう。」
「…何をどうしたら。何をすれば。」
「…サマー、私はこれから時間を戻します。貴方には、この残酷なループを抜け出す為の回路を見つけて欲しいのです。」
話を聞いている内に、私は状況について理解できるようになっていた。
まず、ライラ女王はテイルの策略を防ぐため、自ら女王になった。そんな彼女は、本来のベアーズロック戦闘部隊の三番隊隊長だったらしい。しかし、女王になった成果もあり、テイルが三番隊隊長になってからは展開がかなり変わったらしい。しかし、結局結末はテイルやベアが勝利してしまう。
そして、毎度この時計城の最上階にライラ女王と私が対面する。初めは闘い殺し合うこともあったそうだが、何度も似た光景を見たライラ女王は、色々な対策を試みたそうだ。
「…サマー。貴方には戦闘部隊の時から負担を掛けてしまって申し訳無いと思っています。ですが、もう貴方に頼る他ないのです。私一人ではもうどうにも…。」
私はゆっくりとライラ女王を抱き締めた。
「…私は貴方がベアーズロックの戦闘部隊の頃を知らない。私にとってのライラは女王です。ですが、今だけは対等な友としてライバルとして話させてください。私に出来る事があるなら協力します。」
ライラ女王は、溜め込んでいた涙を流した。
ずっと一人で辛かったのだろう。
「…サマー。これから貴方は何度も同じ世界や時間を行き来し、繰り返す事になります。私と貴方は必ずここで落ち合う事になるでしょう。その時に互いの報告をしましょう。少しずつにはなりますが、二人で微調整を繰り返すのです。そして、新たな道を見出した時、テイルとベアの首を取りましょう。」
ライラ女王の言葉に私は頷いた。
すると、時計城内がやや騒がしくなっていた。
「テイルが乗り込んで来たようです。サマー、私はこれから時計城の時計を操作し、時間を戻します。起動したら直ぐに貴方を殺さなくてはならない。覚悟は良いですか?」
私は深く頷いた。
「…私もすぐ後を追います。サマー、よろしくお願いしますね。」
私はライラ女王に心臓を貫かれた。酸素が不足し、全身に痙攣が走る。次第に私の意識は遠のいていった。
───もう一度、あの日へ。




