#33 ディストピア
現在、僕達はルタコ村付近の上空にいる。
ふとルタコ村を見下ろすと、そこには無数のベアで溢れ返っていた。
整列して向かう先は、僕達がいたシャオタンであった。
「…これもテイルの仕業か?」
イマ隊長は、セイラさんの方を向いた。
「…すみません…こんな事になるとは。」
セイラさんは、申し訳なさそうに呟いた。
「セイラは何も悪くないさ。仲間だと思っていたから話した、それだけの事じゃないか。現にイマの判断が正しかったから私達は無事に此処にいる。まずはテイルに話を聞かないとな。」
サマー隊長は、笑顔で指をボッキボキに鳴らしていた。
「…セイラを責めたつもりは無かったんだがな。」
「険しいんだよ顔が。」
落ち込むイマ隊長に冷静に切り込むサマー隊長。隊長同士だから出来る事で、隊長同士だから笑い合えること。恐らくここで僕が笑うとボッコボコだ。いや、目線で殺しに来るかもしれない。
そんな事を考えていると、村の端から何者かがこちらへと近付いて来た。
徐々に迫る姿はまさにホウジンゾクの姿、ルタコ村へ調査に行っていたキリとエアであった。
「キリッ!エアッ!無事で良かった!」
「無事というか…ギリギリだったというか…。」
話を聞くと、エアの鼻が利いたらしい。
ルタコ村に入るも、人気もなく波の音だけが響いていた。しかし、突然無数の獣の臭いが漂ってきたとか。
「恐らく、何者かに指示されているんだと思います。」
エアの発言にイマ隊長やサマー隊長は顔を見合せた。
「…何はともあれ先を急ぐぞ。」
僕達はイマ隊長の後を追うように、王都サホロへと急いだ。
王都サホロに着くも、周囲にベアは居なかった。
しかし、王都サホロの大きな木製の門は破壊されていたのだ。
「イマ隊長!あれっ!」
僕が門を指さすと、イマ隊長は「着いて来い」と指で合図した。
僕達は王都を囲む塀の上へと向かい、塀の上から王都サホロ内を見下ろした。
「…何だよこれ。」
そこにはかつてのサホロは存在しなかった。
土埃越しにも見える崩壊した建築物。食い荒らされた食物や国民の死体。血腥い臭いが風に乗って、僕達の鼻を通る。
「…まずは王女の無事を確認しよう。時計城に急ぐぞ。エア、ベアの臭いは?」
「大丈夫です。今は近くにいないようです。」
イマ隊長の指示の元、僕達がサホロ内へと降りて低空飛行を始めた瞬間…
『バゴオォォォォォォォォオオオンッッ!!!』
至る方向から十数匹の雑魚ベアが飛び出してきたのだ。
「嘘でしょ!?ベアの臭いなんてしなかったのに!」
「このまま全速力で飛び続けろッ!時計城にまで真っ直ぐだッ!」
隊長達を先頭に僕達は時計城へと急いだ。
しかし、先回りしたベアもいる為、どのルートを辿っても鉢合わせてしまう。
「イマ隊長ッ!闘うしかありませんッ!最低でも二体ッ!」
「お前達はこのまま真っ直ぐ時計城に行けッ!サマーッ!皆を頼むッ!ここは俺が引き受けるッ!」
動揺した僕の言葉にイマ隊長が全員へ指示を出した。
「この数を一人でなんて無謀ですッ!」
「そうですよ!自殺行為です!」
「サマー隊長、ここは全員で残りましょう!」
エア、キリ、セイラはイマ隊長に指示に納得出来ず、高速飛行したままサマー隊長へと申し出た。
「…時計城へ行く。」
サマー隊長の判断に全員開いた口が塞がらなかったが、イマ隊長だけは微笑んでいた。
「…サマー、頼んだぞ。」
イマ隊長がサマー隊長の肩に手を置いた。
サマー隊長は「ああ」と返事をしたが、声が震えていた。顔こそ見えないが、涙を堪えているに違いない。
「ガキ共ッ!黙って私に着いて来なッ!」
僕達は唇を噛み締めながら声を揃えて返事をした。
時計城前まで来た時、左右の通路から雑魚ベアが襲い掛かって来た。
僕達が速度を落とさず進んでいると、イマ隊長が更に前へと出た。そして、左右の雑魚ベアの目と首を斬り落とした。
「さぁ!行けッ!」
僕達はイマ隊長を残し、先へと進んだ。
サマー隊長が何か耳打ちしているようであったが、何を言ったのかは分からなかった。
そして僕達は時計城の中へと入った。
「…さぁ地獄のショーを始めようか。」
毒付刃を抜くと、俺の周りに数十匹のベアが囲む。
すると、雑魚ベアの並ぶ奥からゆっくりと手拍子をしながら近付いてくる影があった。
「いやぁ、流石はイマ隊長です。お見事としか言いようがない。」
「…テイル、やはりお前だったか。」
「やっぱりもうバレてたんですね。どこまで気付いたんですか?」
「お前がベアを操っていると推測して戻って来ただけだ。ヤマとイケはどうした?」
テイルは不気味な笑みを浮かべた。
「…さぁ?今頃、ベアの餌食になっているんじゃないですかね。あの数から逃げ切るのは絶対無理ですからね。漸く邪魔者を排除できますよ。」
「…なるほど。お前は俺やサマーよりもヤマやイケを邪魔者と思って、トマッコイへ送り込んだんだな。」
「そうですが、何か?」
俺は毒付刃を構えた。
「舐められたものだな。その判断が間違いだったと思わせてやる。」
───とはいえ、この数とテイルの相手となると生きていられるか分からないな。ヤマ、イケ、何とか生き延びてくれ。サマー…お前の最後の願い、聞き入れてやれんかもしれん。
俺は、サマーの言葉を思い返した。
「…必ず…生き延びろ…か。」
「イマ隊長、貴方はここで終わりです。」
「ベアーズロック戦闘部隊ッ!一番隊隊長ッ!命を懸けて、お前達を斬るッ!」




