#32 蛇
【ルタコ村】
私達は今、ルタコ村の港にいる。
ルタコ村は恐ろしい程に静かだ。
いや、正確に言えば、王都サホロを出てからやけに静かだった。
「…何か静かすぎません?」
エアちゃんは不安そうに話していた。
私は頷いて歩いていると急に地面の色が変わった。
大きな鍋で加熱でもしたのか、それ程の範囲で真っ黒に染まっていたのだ。
真っ黒な地面に触れるも、他の地面との温度は大差なかった。
「…一日以上は経過している。焚き火をしたにしては範囲が大きすぎる。考えられる可能性は何だろうか…それにやけに潮の匂いが強い。この位置では波もそれほど荒くはない。誰か海にでも飛び込んだか。」
私がブツブツと独り言を呟いていると、エアちゃんは再び不安そうな表情を向けた。
「もしかして、先程言っていたサマーさんがいたんじゃないですかね?」
私も丁度そう思っていた。だが、そのサマー隊長がいる気配が全くない。サマー隊長どころか、ベアの気配すら無い。
その後、私とエアちゃんは村の隅々まで見て回った。
しかし、何も見つかることは無かった。
「ここはハズレ。でもセイラさんの言っている事が本当なら、シャオタンに何かあるかもしれない。何なら、サマー隊長が居る事も有り得ますね。」
【シャオタン海岸】
「…こんな所に家が。」
僕は唖然とした。しかし、セイラさんは問答無用に家の扉を叩いた。
すると、ゆっくりと開いた扉の向こうに立っていたのは、サマー隊長だった。
「セイラ!?それにアキも!」
セイラさんは言葉を発さず、そのままサマー隊長に抱きついた。
サマー隊長も初めは戸惑っていたが、次第に受け入れていた。
「…でもなんで此処がわかったんだ?」
「正直賭けでした。前にイマ隊長が言っていた事を思い出しただけです。」
すると、サマー隊長の後ろから顔を覗かせたのはイマ隊長だった。
「…俺が何だって?」
何故だろう、イマ隊長を前にすると一度はビクッとなってしまう。それは僕だけでなく、セイラさんも同様らしい。
「…昔死に場所がどうとか話したじゃないですか。その時に出てきた場所がシャオタンだったんですよ。覚えてないんですか?」
「…覚えてない。そもそもそんな理由で居座ってない。」
聞いている限り偶然であり、幸運であっただけだった。
現にセイラさんは空いた口が塞がらず、サマー隊長はそれを見て口を手で押さえていた。
「…ぷッ……笑ってない…笑ってませんよ。」
───笑ってるよ。
「まあ何にせよ積もる話もあるだろう。」
イマ隊長の案内で僕とセイラさんは、家の中へと入った。
そして、僕とセイラさんはこれまでの状況について全て伝えた。当然、イマ隊長やサマー隊長の知らない事がほとんどで、二人は驚きを隠せずにいた。
「…やはりほとんどの隊員が死亡しているのか。変異種も三体いて、王都サホロはテイルが守っていると。」
「それに王のベアを倒さないと雑魚ベアの発生は止まらないのか。こりゃ中々難儀だね。」
サマー隊長は苦笑いをしていた。
すると、イマ隊長は立ち上がり、窓の外を眺めた。
「…イマ?」
「…考え過ぎであってほしいんだが」
イマ隊長は、一つの推測を語った。
「俺達が王都サホロを立つ時、知能のベアに襲撃を受けていた。雑魚ベアに囲まれて、それぞれが別方向に逃げていった。しかし、あの場を乗り切った者は全員深い森へと入ったんだ。森といっても、誰かと鉢合わせる可能性は高い。現に俺はサマーに会っているし、他の隊員も誰かしらには会えている。だが、一人だけ誰にも会っていない奴がいるんだよ。」
「…誰にも会ってない…それって。」
僕が聞き返すと、サマー隊長やセイラさんの表情は曇っていた。
「…そう。つまり、すぐに森から抜けたという事だ。迷いの森を抜けるのは難儀だが、頭が切れて嗅覚の強い奴なら容易い事だろう。」
「つまり、軍団長と知能のベアが相打ちするように仕向け、尚且つ雑魚ベアも撤退させた。さも自分が討伐したかのように。そうすれば、自身のアリバイが証明され、王都でのんびり過ごせた訳か。」
イマ隊長とサマー隊長の口調は、推測ではなくほぼ確信に変わっているような気がした。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!それって、テイルさんがベアの仲間だと言いたいんですか?」
「…落ち着け。絶対そうって訳じゃない。ただ可能性が高いという話だ。証拠だってある訳じゃない。」
すると、突然セイラさんが椅子から立ち上がった。
「…まずいかもしれません。」
「セイラ?」
セイラさんは、サマー隊長を見て口を開いた。
「テイル隊長、ヤマとイケにトマッコイへ行けと指示したんです。あそこはベアの多発地域。今の推測が当たっていたとしたら、彼等を始末する為に送り込んだんじゃないですか!?」
「何!?」
サマー隊長の一声でイマ隊長は立ち上がり身支度を始めた。
「二十秒で支度しろ。すぐに王都サホロへ向かうぞ。」
僕達は身支度を整えたイマ隊長とサマー隊長を連れられ、王都サホロへと向かった。




