#30 再集結
「………。」
「お前はいつまでしょぼくれてんだ。」
「…だって。」
僕は見てしまったんだ。
ここに来るまでの死体の山を。
ベアーズロック戦闘部隊、ほとんど壊滅していた。
軍団長だけでなく、五番隊のマエキヨさんまで…。
それに、オリカやシオナまで亡くなっていた。
「…もう誰にも会えないのかな。」
「そんな事無いだろ。まだ生き延びている奴がいるはずだ。ベアーズロック戦闘部隊は…いや、俺達同期生はそんな簡単に死ぬほど弱くねえよ。」
「…そうだよね。信じるしかないんだ。」
するとエアが聞き耳を立て、その場で立ち上がった。
「…何か来る。」
その言葉で僕とヤマも戦闘態勢となった。
茂みのガサガサという音が段々と近付いて来る。
しかし、茂みの中から出てきたのは、ホウジンゾクだった。
「…え?」
その顔には見覚えがあった。
顔や身体は痩せ細く、口元から顎にかけて髭は濃くなっている。
「…イケ…なのか?」
「…やっと会えた。」
イケは涙を流すなり、僕の胸へと飛び込んできた。
「…良かった…生きてて良かった。」
イケには、これまで起きた全ての事を聞いた。
「…そうか。アユにカエデ、ルイも。」
その場には再び暗い空気が流れ込んだ。
「…あとは、キリとセンリか。」
「…センリさんならもうこの世にはいませんよ。」
ヤマに返答したのか、全くの別方向から女性の声が聞こえた。
そこに居たのは、元二番隊隊長の側近のセイラさんだった。
「セイラさんっ!」
「アキ、生き残ってて安心しました。ここへ来る途中、オリカやシオナの遺体を見ました。やはり現実は甘くありませんね。」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコッッ!
ドドンッドドンッドーンッ!
「何だこの地震っ!」
僕達は立っていられない程の地震に襲われた。
揺れはすぐに収まったが、近くの森から激しい音が響き渡る。
木が一つ、また一つと倒れていくのだ。
「…何が起こっている。」
「どう考えてもベアだろ。」
イケの発言にヤマは棘のある言葉で返した。
「…にしても強くないか?」
「そうね。ベアなら、一番強いかもしれませんね。」
「…もしかすると、あれは狂のベア。」
僕とセイラさんの間に入るようにエアは言った。
そして、俺達は一斉にエアの顔を見た。
「狂のベアは、名の通り最も狂ったベアの事。ベア達でさえ止めることは不可能と言われているわ。意思疎通も出来ない、つまり止めるには討伐するしかないの。」
再び森を見た時、ヤマはある事に気付く。
「…おい、段々こっちに近づいて来てないか?」
言われてみれば少しずつ近づいて来ていた。
「とりあえず飛んで様子見てみようよ。」
イケの言う通り、僕達は羽根を動かして空へと昇った。
暫く見下ろしていると、森の隙間から赤黒い大きなベアが暴れ回っているのが見えた。
そのベアに目玉はなく、空洞状態だ。
更には、そのベアに襲われかけており、逃げいてる者がいたのだ。
「…ねぇ、あれって。」
「「キリッ!」」
僕とヤマは、ほぼ同時に気が付いた。
そして、ほぼ同時に飛び出した。
「ちょっとアキ!ヤマ!狂のベアに手を出したら、対象が変わる!上手く逃げ切りなさい!決して闘おうとしないで!」
エアの声は耳の奥まで良く聴こえた。
「「了解ッ!!」」
僕とヤマは進行方向を上手く機動させた。
僕とヤマは、地下帝国で長い期間行動を共にしていた。
その為、ヤマがどの動きをしても僕には対応可能なのだ。
これは僕達二人にしか出来ないのだ。
「キリッ!こっちだっ!」
僕の声がすぐに聴こえたのか、キリは正面を向くと驚いた表情を見せていた。
「…え?アキ?それに…ヤマ!?」
狂のベアの手が届く直前、僕とヤマはほぼ同時にキリを救出した。
更に上空へと羽根を急がせ、確実に手の届かない所まで昇った。
僕達はテンポ良く荒い息を立てていた。
そして、顔を見合せて笑いあった。
「ほんと何やってんのよ。」
「お前こそ何やってんだよ。不細工な顔で逃げやがって。」
「美女の間違いでしょ!」
キリはヤマの肩を思い切り叩いた。
「でも、無事で良かった。」
「うん、ありがとね。にしても…」
僕達三人は下を見た。
狂のベアがこちらを凝視していた。
「…マエキヨ隊長はあいつに殺られたのよ。」
「マエキヨ隊長で駄目となると相当強いな。」
「キリ、ヤマ今は逃げよう。いつか決着をつける時が必ず来る。」
ヤマは少々不服そうだったが、最終的には全員の意見は合致した。
「三人共無事ね?一先ず、西へ向かましょう。」
セイラさんに続き、エアやイケも遅れてやって来た。
「無事です。でも、何で西なんですか?」
「昔、サマー隊長がこんな事を言っていたの。」
───人生終えるなら何処にいたいか…ですか?
「そう、最後くらい好きな場所で死にたいじゃん?」
「言いたい事は分かるんですが…それを何故私に聞くんですか?」
「別に深い意味は無いよ。どうなのかなって。」
「あまり考えた事ないですね。戦闘部隊の私達に死に場所を選ぶ権利なんてあるんでしょうか。」
「あるよっ!いざとなったらそこまで飛んで行っていいよっ!」
「…わかりました。探しておきます。」
「それがいいよ!」
「…ちなみにサマー隊長は何処なんです?」
「私?私はね…やっぱルタコとかシャオタンが良いかな。綺麗な海、それに山がある。何せ空気も美味しい!」
「岸壁から落ちないように気を付けてくださいね。サマー隊長ならテンション上がって落ちそうです。」
「失礼なっ!」
━━━━━━━。
「…何か不思議な会話ですね。」
僕はサマー隊長の性格を知っている。
その為、この場にいないにも関わらず気が滅入ってしまった。
平常運転で会話出来るセイラさんや隊長達が凄いとまで感じていた。
「そうかしら?サマー隊長はいつも突発的だから、急に思い付いたら行動を取らずにいられないの。」
セイラさんは笑顔を向けた。
しかし、その奥には別の感情が隠されているように感じた。
それもそのはず、そもそもサマー隊長が生きているかも分からないのだから。
セイラさんは、サマー隊長の発言に賭けたいのだと悟った。
「よしっ西に行こう!サマー隊長なら絶対生きている!」
僕の訴えに皆が頷き、まずはルタコへと向かった。
皆が飛び立った後、セイラさんが僕に近付いて来た。
「ありがとう。」と言ったセイラさんは、これまでで一番美しかった。




