#29 反撃の準備
ここは、シャオタン海岸。
ルタコ村より更に西に進んだ所に位置する。
特別何かがあるかと言われるとそうではない。
何故、イマは此処に来ようとしたのか。
私には分からなかった。
下を覗き込むとザザーンッと強い波が岸壁に打ち付けられている。
本日は曇天のせいか、波も荒れ気味だ。
快晴の日に来れば、ここも絶景なのだろう。
そんな景色をイマが眺め初めてから、三十分は経過しただろうか。
何も言わない時間が過ぎていく。
「イマ、そろそろ教えてくれても良くないか?」
私はしびれを切らして問い掛けた。
「…着いて来い。」
イマは溜息を吐きながら移動した。
崖とは反対方向に山を下っていく階段がある。
下った先は、岩場だらけになっている。
イマは波の打ち付けられるタイミングを見ながら、一つずつ渡って行く。
「…飛べばいいのに。」
私は羽根を動かして着いて行った。
最後の岩場からイマも羽根を動かし、隠れた洞窟へと入って行った。
その後を着いて行くと、その洞窟は蒼く輝いていた。
反対にも洞窟が繋がっており、その明かりで海の青色が反射しているのだろう。
「…なんて美しい洞窟なんだ。」
私は感動のあまり、目を輝かせてしまった。
「…自然が作り出したこんなに素敵な洞窟も、ベアによっていつかは壊されてしまうんだ。だから俺は、この地の自然を守りたい。その為には何をしたら良いか、ベアを討伐するしか道は無い。」
イマの表情は、段々と険しくなった。
「…サマー、俺は闘い続ける。ベアーズロック戦闘部隊が無くても、やって行けるはずだ。」
「…それで?私にどうしろと?」
「…手を貸して欲しい。このシャオタンで暮らし、ベアを討伐して行く。」
「手を貸すのは良いとして、何故シャオタンなんだ?」
するとイマは、荒波を指さした。
「ここは快晴でも波が荒れている。ここから落とせば二度と上がって来る事はできない。他の海沿いでは出来ない事だからな。」
「なるほどね。でも私達の生活はどうするのさ。衣食住が揃ってる訳じゃないだろ?」
私の言葉に反応せず、イマはある方向へと進んだ。私も何も言わずに後を追った。辿り着いた先には、ボロボロの古民家があった。中は埃まみれで、広めのワンルームといったところか。木は朽ちている為、所々隙間風が入っていた。時々舞う埃が鬱陶しく感じ、私は全ての窓を開けた。
「何年か前から非常食や衣類、必要最低限の生活用品は揃えてある。当然、ベッドも置いてあるし、温水蛇口付きだ。」
「…昔から時々姿が見えなかったのはこれだったのか。」
私がベアーズロック在籍時、何度かイマの姿が見えなかった時があった。
時に気にしてもいなかったのだが、数年越しに辻褄が合い、小さな謎が解決した気分だ。
「まあな、万が一の事も考えていた。まさか本当にこうなるとは思ってなかったがな。」
「…わかった。私はあんたに協力する。勿論、アキやセイラの捜索も手伝ってもらうよ。あいつらはまだ王都サホロの周辺を彷徨いているはずだからね。」
イマは静かに頷いた。
「他の生き残っている仲間達も探すぞ。馬鹿正直に交戦するのはもうやめだ。ベアーズロック戦闘部隊は、生存者だけで受け継ぐ。過去の栄光に浸っている暇は無い、今はとにかく協力しあうべきだ。サマー、俺達がまた作るんだ。新しいベアーズロックを。」
珍しく饒舌で熱い思いを語ったイマ。
私は改めて、流石だと思わされた。
私達は再び手を取り合った。
「さぁ、反撃の準備だ。」




