#26 焔の灯る夜に
俺は今、生臭い空間にいる。
結論から言えば、ここは胃袋の中だ。
生臭い理由、それはここがベアの体内だからだ。
辺りは暗く、良く見えない。
しかし、幾つものホウジンゾクの死体が液体に浮かんでいる。
そんな俺の下半身も液体に浸かっている。
恐らくこの液体は胃液だろう。
いずれここにいるものは消化され、便として排出されるのだろう。
「…悪いが便はお断りだ。」
私は新たな最後の刃を取り出し、液体に付かないよう構えた。
───これが焔のベアを倒す最後のチャンスだ。一番隊隊長の維持、粘膜でとくと感じてくれ。
俺は、【無双連撃】という技を繰り出した。四方八方へ小刻みに切り口をいれ、一つ一つの傷が繋がり、大ダメージを与えるという大技。
この技は、軍団長の得意技だ。実践で使用するのは初めてだが、やるしか道は無いのだ。
俺は一太刀粘膜を切り裂いた。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!腹が腹がッ!」
焔のベアは、腹部を押さえて苦しみ始めた。
粘膜からは出血があり、胃液へと流れ込む。
同時に大きな振動が全体を伝ってきた。
そして俺は、無双連撃を繰り出した。
大きな振動は次第に揺れへと変わり、効果は絶大だと確信した。
視界が悪くても分かったこと。
それは、焔のベアの胃の中は、既に赤黒く染まっているという事。
「…しかし、このまま此処にいれば結末はう〇こだ。」
「確かにその通りだな。」
俺しか居るはずのないこの空間から、別の人物の声が聴こえた。
声の方向からは光が差し込んでいた。
「イマ、今の内に此処から出るぞ!」
「…サマー?」
「ほらっ!はやく!」
俺は差し出すサマーの手を掴み、光の方へと向かった。
外に出るとそこにはルタコの村や港、海が広がっていた。
振り返るとそこには、鎮火した焔のベアが佇んでいた。
「イマが胃袋で暴れ回ったせいか、苦しんだ後にはさっと火が消えてね。」
「…そうか…ありがとう。」
「私は何もしてないよ。結局、イマが強かっただけの話だろ。」
「…そうでもないさ。本当は怖くて怖くて仕方が無かった。俺が強く見えるなら、それは一番隊隊長の維持ってだけさ。」
それからサマーは、ただ微笑んで何も言わなかった。
「…さ、これからどうする?このままルタコを拠点にしても良いけど。」
「…少し休んだら、更に西に行こう。」
「更に西って…シャオタンに行くのか?」
「…あぁ。ベアーズロックはもう崩壊だ。隊員どころか、軍団長すら生きているのか分からない。今の俺達に出来ることをするんだ。」
「…だからってシャオタンに何があるって言うのさ。」
「…サマー…何も言わずにもう一度信じて着いて来てくれないか?」
サマーは驚いた表情を見せていた。
しかし、返事までの時間はそうかからなかった。
「…わかったよ。」
気が付くと、辺りは暗闇に包まれていた。
俺達は焔のベアをその場で燃やした。
暗闇の中で灯る焔は、実に美しかった。
「…エンドラ…仇は取ったよ。」
そして後日、俺達は西へと歩み始めた。




