#25 陽炎
「…炎を纏ったベア…お前がエンドラを。」
炎を纏ったベアは不敵な笑みを浮かべ、私の方を見た。
「私の名は、焔のベアだ。貴方の言うエンドラという女性は、貴方の仲間ですか?」
「…そうだよな…覚えてないよな。」
私は静かに刃を抜いた。そして勢いよく羽根を動かした。
「だからベアは嫌いなんだよッ!!」
私が飛び立ったと同時に、イマも海中から現れた。
私は最大出力で羽根を動かし、焔のベアの目元や胴体を刃で斬り裂いた。何度も何度も斬り裂いた。
だが、斬っても斬っても手応えがない。
まるで何も無いただの炎を斬っているようだった。
「そんなんじゃ、無駄死にしますよ♪」
私が苦難の表情を浮かべていると、焔のベアの背後にイマが刃を貫通させた。
「イヤアァァァァァァァァァァッッ!!!!!」
刃を貫通させた部位の炎が荒々しく燃え、ジュワジュワッと音を立てている。
「炎だもんな、水には弱いだろ。」
イマは海から出てきた、イマだけでなく刃も海水で濡れていたのだ。
「やっぱイマは天才だよっ!」
私は二年ぶりに戦闘で笑った気がした。
「…下手に出ていれば調子に乗りやがってえぇッ!」
冷静で丁寧語を話していた焔のベアはそこにはいなかった。
大きな胴体と腕をブンブン振り回す。
私とイマはそれを上手く回避し続けた。
「サマー!海へ入れ!」
「おっけー!」
イマは懐から鎖で繋がれた金具の様なものを取り出した。焔のベアの攻撃を回避しながら、イマは焔のベアの周囲を回り続けた。
そして、それを港のボラードへと巻き付けた。
焔のベアはその場から身動きが取れなくなっていた。
私は全身を海水で浸し、再び焔のベアの元へ飛んで行った。
「行っくぜぇぇぇぇぇッ!!!」
私は全速力で大回転しながら、焔のベアの胸部を貫いた。
しかし、穴の空いた胸部は再び炎で塞がれてしまった。
「そんなのありかよっ!」
私はそのまま方向を急展開し、再び海へと潜った。
──どうするっ。海水の攻撃はそれなりに効いた。だけどこれじゃあ弱い…。イマならどうする?
私は海から顔を出し、イマを探した。
イマは焔のベアの目の前を浮遊していた。
「…イマ?」
遠目でだが、イマの視線は焔のベアだけを見つめていた。
「…もうやる事は一つしかない。」
イマは再度海へと飛び込んで来た。
「イマッ!」
私の声には目もくれず、イマは焔のベアの元へと向かった。
すると突如速度を上げ、先程やった私の技を見様見真似でやり始めたのだ。
大回転した大技は、焔のベアの口元へと激突した。
「何度やっても同じだァッ!!!」
「…イマ?」
しかし、焔のベアへ突っ込んで行ったイマの姿はそこには無かった。
焔のベアも周囲を何度も見渡していた。
何度呼び掛けても、イマの返事は無い。
すると、何故か焔のベアが苦しみ始めた。
「…うぅ…何だ…腹がおかしい。」
この時、私は全てを察した。
恐らくイマは、焔のベアの胃袋にいるのだろう。
「…まさか…イマッ!!」
イマが胃袋に入った理由。
それは、自身の命を犠牲に焔のベアをあの世へ道連れにするためだと悟った。
炎天下に揺らぐ陽炎のように、私の視界はユラユラと揺れていた。
吐き気に耐えながらも、私はイマの名前を呼び続けた。




