#24 今ある形
サマーと海のベアが交戦して大分経った。
俺は未だに闘いを森の陰から眺めている。
海のベアは、蟹の爪や海洋生物の尾鰭などに姿を変えて攻撃していた。
しかし、サマーも負けていない。何度も刃で攻撃を払い除けていた。
───元とはいえ、流石は二番隊と言ったところか。
「ほらほらっ!どうしたっ!女の私に負けたら恥なんじゃないのかっ!」
女性とは思えないほど早い刃捌きで、サマーはベアを圧倒していた。
終いには、海のベアの手や尾鰭を切断したのだ。
海のベアは跪き、諦めたように下を向いた。
そんな姿を見せても、サマーは矛先を向け続け、決して容赦はしなかった。
「泣き喚いても私は君を生かすつもりはないよ。」
「…好きにしろ。どの道こんな能力じゃ、勝ち目なんてないのさ。」
「一つ聞かせてくれないか、何故闘う?」
「そんなの決まっている。人間が先祖であるホウジンゾクを絶滅させ、ベアの国にするためだ。俺達能力者は生まれた時からそう教え込まれたのさ。」
サマーは、胸ポケットから何かを取り出した。それを海のベアの目の前へ落とした。
「…見覚えあるだろう?とある古城に通り掛かってね。君達ベアの歴史書も読ませてもらったよ。」
「ハハッ…懐かしいな。これは昔、王から能力者に送られたネックレスだ。大分錆びているが、これは天のベアの物だろう。」
────天のベア?
「その天のベアはどこにいる?」
海のベアは何かを隠している様子で笑っていた。
「さぁね。時が来るまで身を潜めているんじゃないか?俺も会ったのは一度きりだ。何せ奴は、ベアの姿でいる事はほとんど無いからな。気配すらも消しちまうんだ。」
「ふーん、つまりベアーズロックに紛れ込んでいる可能性もある訳だ。」
海のベアは、不敵に笑っているだけだった。
そんな海のベアの首をサマーは切り落とした。
海のベアの身体は倒れ、落ちた首は笑ったままだった。
「…聴いただろう?私は天のベアを探す。止めたって無駄だからね。」
サマーは、大きめな声で独り言を呟いた。
恐らく、俺の存在に気が付いているのだろう。
俺は諦めて、サマーの前に降り立った。
「久しぶりだな。サマー。」
「あんたも少しはマシな面構えになったんじゃないの?」
「サマー、俺はお前を止めるつもりはない。だが、見捨てるつもりもない。これからはお前と行動を共にしよう。」
サマーは溜息を吐いた。
「あんたが私といたら、あんたも裏切り者になるよ。」
「構わない。この先、死刑になろうと、俺はお前に着いていく。」
サマーは諦めたように背を向けた。
「…行くよ。」
俺とサマーは、約二年ぶりに並行して歩いた。
河原の先には、緑が一面広がっている。
王都サホロから西、俺達はルタコという村に来た。
かつて硝子や漁業の栄えたこの土地も、今では森と海に囲まれている。
今では何人のホウジンゾクが住んでいるのかも分からない。
その為、村に入っても異様なほど静かだ。
聴こえるのは波の音とウミネコの鳴き声くらいだ。
「…さて、一先ずここを拠点にしよう。」
俺達は廃屋の中に入り、薪を集め火を着けた。
暖を取り始めた途端、外は雪が降り始めた。
「サマー、お前何故戻ってきたんだ?」
「あのクソ坊主を連れ戻しに来ただけさ。心を読む変異種に会ったらしく、ベアーズロックが危ないとか言ってさ。」
「…恐らく、あの変異種だろう。軍団長が交戦しているはずだが…」
しかし、あれから随分と時間が経過している。
音沙汰もなければ、進展もない。
「まあ、軍団長は最後の役目を果たしたんだと思うよ。なんの通信も無いって事は、そういう事だろうさ。」
サマーの言う通りだ。もし生きていれば、何かしらのアクションがあるだろう。
「軍団長が居ないなら、私もう帰って良くない?」
「…不謹慎すぎるだろ。」
サマーは高笑いした。
一体どこで笑ったのだろうか。
「相変わらずイマは面白い。」
俺は立ち上がり、廃屋の外を眺めた。
この雪じゃ暫くは動けないな。
四方八方見渡し、俺は更に外へと一歩踏み出した。
「あ!やっと見つけましたよ。こんな所に居たんですね。こんにちは。」
低音のガラガラ声が上から聴こえる。
それと同時に俺を包む闇のように、影が重なり合った。
そして、何故かジリジリと音をたて、少し辺りが明るくなっていた。
───マジかよ…こんな時に…お前が…。
俺は上部後方、廃屋の屋根の方を見上げた。
「こんにちは♪」
屋根に跨るようにそいつはこちらを見下ろしていた。
全身に炎を纏い、丁寧語で見下したような視線。
「サマアァァァァァァァァァァッッ!!!!!」
俺が叫んだと同時に、炎を纏ったそいつは殴りかかって来た。
大きな振動と共に、炎は雪によりジュワーッと音を立てて燃え尽きた。
「な、何!イマ?イマっ!」
「さぁ、炎のショーの始まりです♪」




