#23 本当の龍の継承者
「おりゃあぁぁぁぁあッ!!!!!」
パキーンッ!
力強く振り落としたオリジナルの毒付刃が折れた。
「これで俺の残機は一になったわけだな。」
狂のベアは言葉を話さず、過呼吸のような荒い息を立てていた。
───クソっ。刃は通らねぇし、俺の体力だけが削られていく。ハハッ、こりゃ参った参った。
「俺も独り言が多くなっちまった。それだけ歳を重ねたって事なんだろうな。」
狂のベアは全く耳を傾けず、大きな手を思い切り振り落とした。
俺は盛大に弾き飛ばされたが、大きな羽根を動かして空中で止まりきった。
頭から血が流れ、視界までも赤く染まる。
「…ハハッ…エンドラ。お前の力、使わせてもらうわ。」
エンドラが死んだ後、ベアーズロック新本拠地で龍の継承者について話し合いが行われた。
「エンドラが亡くなった為、龍の力はエンドラの近くにいた者へ継承されると言われている。選ぶのはエンドラ自身、現状可能性が高いのは隊員のアキだろう。アキは数日の内に死刑とし、新たな龍の継承者を今のうちに決めておこうと思う。」
正確にはこの話し合いは、誰に継承しようではなく、私が継承しようと思うだ。
軍団長の言った通り、表面上での継承方法はそのように言われている。
だが、実際は違う…。
俺は右手首のリストバンドを眺めて過去の出来事を思い返した。
────。
「マエキヨ、最も信頼する貴方にお願いがあるの。」
「ハハッ四番隊隊長が五番隊隊長の俺にお願いとはな!何だ?まさか金か!?」
「違いますわ!龍の継承のことです!」
「龍の力がどうしたんだ?」
「万が一私が死んだらマエキヨ、貴方に龍の継承者になってほしいの。」
「だが、継承は死の間際にお前が決めるんじゃないのか?」
「確かに表面上はそう言われているわね。」
エンドラは俺に背を向けて語った。
「でもねマエキヨ、これを持っていれば私の能力は貴方に受け継がれる。」
エンドラはリストバンドのような物を渡してきた。そのリストバンドには、龍の紋章が刻まれていた。
「お前…これ。」
「絶対無くさないでね?」
────。
俺は天に龍の紋章を掲げた。
正直、ベアーズロックでの話し合いの時は肝を冷やした。
エンドラと俺だけの秘密、そして交わした最後の約束。
ベアーズロック隊長の立場を失おうと、軍団長を裏切る事になろうと、俺はエンドラとの約束を最優先した。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!」
全身の血液が勢い良く流れ、皮膚が黒く硬い鱗に変化した。次第に身体から四肢へと大きくなり、爪も太く鋭利に伸びた。
───何だこの感じは!?言葉が話せない!?
俺の意思とは関係なく、身体は動き始めた。
───お、おい!止まれ!そっちは…
少しずつ狂のベアへと近付き、俺の手は大きく狂のベアの頭部を殴り払った。
狂のベアは再び狂ったように暴れ始め、俺の身体を全身で掴んだ。骨にも影響が出そうな程の強大な力で掴まれるが、俺はそれを薙ぎ払った。
───いける!この力ならこいつを倒せる!
しかし、狂のベアは同じ攻撃を繰り返した。そのせいで、両腕の骨が折れてしまった。
───ぬわああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!
俺が心の中で悲鳴をあげると、龍も雄叫びをあげた。
───た、耐えられない…何だこの痛み…。
狂のベアは攻撃を止めず、次第に肩や腕を噛み始めた。
何度も悲鳴を繰り返し、俺は維持と根性だけで対抗した。
正直、意識はもう飛び掛けている。
最終的に動けたのは顔だけだった。
狂のベアに何度も何度も噛み付いた。
しかし、狂のベアが怯む事は無かった。
───やっぱ…キリと逃げておくべきだったか。逃げたら、今頃笑っていられたのだろうか。ハハッ…せめてこの力は…この力だけは…。
俺は最後に願った。
この場から一番近くにいる強い者にこの力を継承せよと。
もう後半は痛みも感じず、意識も遠のいた。
最後に俺がどうなったのかは分からない。
だが、どうか、この地獄を…
誰か終わらせてください。




