#20 道連れ
「さぁ、立てよ。俺の生贄となってくれ。」
「…なめやがっで。」
歌を歌う変異種は立ち上がろうとするも、膝が崩れ落ちた。そして、膝から下と上半身が切り離された。
それだけでは無い、よく見ると眼球もなく、喉も深く斬られ声も出なくなっていた。
「…あが…が……。」
出血も止まらず、吊り橋を伝って湖に赤い雫が落ちていく。
────スパンッ!
ヤマは刃を収め、俺達の方へ身体を向き直した。
「アキ、待たせたな。一先ず向こう岸へ行こうか。」
「ヤマ、でもまだ…。」
「大丈夫だ…」
次の瞬間、歌を歌う変異種の首や四肢が切り落とされ、そのまま湖へと落ちていった。湖の一部は、次第に赤く濁った色へと変わった。
「ヤ、ヤマ…何でここにいるんだ?」
「…話は後だ。」
ヤマが俺達の背後を指差す。
その方向を見ると、雑魚ベア達がゾロゾロと集まり始めていた。
俺達は吊り橋の向こう岸へと渡った。渡り切ると数体のベアが吊り橋を渡り始めていた。
ヤマは吊り橋を斬り、吊り橋にいたベア達は次々と湖へ落下した。
「…相変わらず容赦ないな。」
「…アキ、まだそんな緩い事言ってんのか。命は一つしか無いんだぞ。」
ヤマの表情は二年前とは少し違った。
吊り橋を渡った後、俺達は深い森を簡単に抜けた。
森を抜けるとそこはもう王都サホロの近くであった。
「…やっと戻ってきた。」
「アキ、あれを見てみろ。」
ヤマが指した方向、そこには血だらけになって変異種と闘い続ける軍団長の姿があった。
「…軍団長。それにあの変異種、僕が遭遇した奴だ。」
「…アキ。俺が地下帝国を抜け出せた理由、それは全て奴の仕業だ。奴は知能のベアと言って、全ベアの中でも最も知能に優れたベアらしい。」
「そういえば、さっきの変異種。エアの事を天のベアとか言ってたな。」
僕の言葉に違和感があったのか、ヤマは「あ?」と首を傾げた。
「…あ、実はね」
僕はこれまでの事を細かく説明した。
「…なるほどな。お前のお陰で少し頑丈な鎖が解かれたかもしれない。」
しかし、ヤマはそのまま軍団長の方を向いた。
「…真相を話す前に、軍団長様の最後を見届けようじゃないか。」
「はああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」
私は…これで何度奴を斬ったのだろう。
正確には斬りかかったのだろうかだ。
私は既に血塗れなのに対し、このベアは無傷だ。
「軍団長さん、もういいよ。終わりにしよう。」
知能のベアは呆れたように溜息を吐いた。
「…そうはいかん。この格好をしている限り、背を向ける訳にはいか…」
話の途中で知能のベアは、なんと俺の左腕を噛みちぎったのだ。
言葉にならない激痛が全神経を走り、私は気を失いそうになっていた。
むしゃむしゃと食べる私の腕の咀嚼音を聞いて、吐き気まで襲ってきた。
「大丈夫?反対の腕も食べないとだよね。」
すると、次は右腕を噛みちぎった。
先程と同じ激痛を体感し、私は気を失ってしまった。
「あれ?軍団長さーん?」
大きく揺らすも、軍団長は目を覚まさない。
そして、知能のベアは軍団長を口元まで運び、ゆっくりと丸呑みした。
「残念、久しぶりにまともなホウジンゾクと会えたのに。」
知能のベアが去ろうとした瞬間、知能のベアは腹部を押さえて悶え苦しみ出した。
「…な、何だ…は、腹が…。」
ドガアァァァァァァァァァァァンッ!!!!!
大きな爆発音が鳴り響き、知能のベアは腹部から弾け飛んだ。
知能のベアの肉塊かは分からないが、多量の血と肉の山が溢れかえっていた。
よく見るとそこには、軍団長の腕や身体の一部も残っていた。
「…軍団長。」
「流石は軍の長。最後は美しく散ったな。」
「…あの爆発は一体。」
「死を悟った軍団長様が自身の身体に爆破物を仕込んでいたんだろう。身体をちぎられ、飲み込まれる事を推測してな。いや、あれだけの研究機関があったんだ、確信はあったんだろう。どんな激痛であっても、知能のベアだけは俺が仕留めるという責任感と使命感を抱いて。現に軍団長様は知能のベアを道連れにした。」
ヤマの解説に俺は流石は軍団長だなと思った。
腕をちぎられると分かってて道連れを選ぶ度胸は僕には無い。
だが軍団長のお陰で、厄介な変異種を仕留める事に成功したのだ。
「さて、アキ。俺達はこれから、王のベアを探す。」
「…王の…ベア?」




