#19 再会
「…久しぶりね、センリ。」
「…シオナにオリカ。こんな所に隠れていたの。」
私は今、かつての戦友に再会した。
「裏切り者に成り下がるなんて。もう死んだかと思ってたわ。」
私の本心はそんな事を言いたい訳じゃない。
本当は今すぐにでも抱き締めたいくらいだ。
「ベアーズロック戦闘部隊の掟、裏切り者には罰を…。」
シオナとオリカは顔を見合せていた。
「…センリ、今私達が争っている場合じゃない。」
「まずは協力してベアを倒すのよ。この闘いが終わったら私達は大人しく捕まるわ。」
しかし、私は刃を収めなかった。
「…裏切り者の言葉に耳は傾けない。」
私だけではない、シオナとオリカも埒が明かないと思っているだろう。
二人も諦めたのか、刃を抜いた。
「…どうなっても恨みっこなしだからね。」
私達は一斉に斬りかかった。
ここは、森の中のでも急斜面であり、唯一川の流れる場所。
どれだけの雑魚ベアを倒したのだろうか。
もう刃の予備も無い、刃先は限界に近い。
だが、逃げる選択肢は無い。何故なら…
───新たな変異種に会えたのだから。
その変異種は、まだこちらに気付いていない。
魚を取るのに夢中なようだ。
すると変異種は右手を鋭い二本の赤い手と変えた。
昔、海鮮市場であのような生物を見た事がある。確か名前は、蟹だったか。
その手で魚を捕獲し、ベアはすぐ様口へと運んだ。
「そんな所でコソコソしていないで、さっさと私の首を取ろうとしたらどうだね。」
…!?
変異種のベアが一人言を言った、まさに俺に伝えたかのような口ぶりだった。
「…まさか…この位置でバレているのか。」
俺が羽根を広げようとしたその時だった…
「ハッハッハ、流石は変異種。見事な観察眼だね。」
───サマーッ!?
「その手は一体何の手なんだい?」
「…貴様に教えるメリットがあるのか?」
「いや、無いね。結局はどちらかが死ぬ運命だからね。出来れば出会いたくなかったよ、出来の悪いクソ坊主を探していただけなんでね。それとも見逃してくれたりするかい?」
変異種からの返答はなく、そのまま赤い二本の手でサマーに振りかかった。
しかし、サマーも刃でそれを防ぐ。
「ま、そうなるよね。いいよ、相手になろう。」
「…貴様は俺の嫌いなタイプのホウジンゾクだ。話しているだけでイライラする。」
両足を浸かる程の浅い河原で、変異種と元ベアーズロック二番隊隊長が攻防戦を繰り広げた。
──クソ、今の俺に出来ることはないのか。一番隊隊長として出来ることを探せ。考えるんだ。漸く出会えたんだ、変異種にも…サマーにも。
あの祠を出て、かなりの時間が経過した。
「エア、もう大丈夫か?」
「うん、もう平気。」
結局あれからクッシーについては、何の情報も得られていない。
上空移動をして、時々歩いてを繰り返している。
しかし、一体はほぼ森で埋め尽くされている。
「…これだけ移動しても誰とも会わないなんて。」
「…気の毒だけど、ホウジンゾクもベアも相当な数の命が絶っているんだと思う。」
歩いていると森の出口が見えた。
光の先には一本の吊り橋とエメラルドグリーンに輝いた湖が現れた。
立て札には、【秘境に眠る橋】と書かれていた。
「ここを超えれば、王都サホロに近付く。エア、覚悟は良い?」
エアは深く頷き、僕達はゆっくりと吊り橋に足を掛けた。
一歩進む度に木の軋む音が聴こえる。
昔の僕なら怖がっただろう。
だが、今はそれ以上に怖い体験をしている。こんな吊り橋、大した事はなかった。
「ゆーらゆーら揺れる橋〜命の数だけ歩んでく〜。ゆーらゆーら踏み外し〜気付い時には来世の子〜♪」
低音で聴こえる歌声は、吊り橋の奥地から聴こえてきた。
「エア、そう簡単には渡らせてくれないみたい。」
「…あれは…歌を歌うベアは一体しかいない。間違いなく、変異種よ。」
これで何体の変異種が発見されているのだろうか。
僕が知る限り、これで四体目だ。
「お前は〜天のベアではないか〜♪」
「…天のベア?」
俺はエアの方を振り向いた。エアは首を横に振り、何の事を言っているのか分からない様子だった。
「そこの若い奴に〜記憶を〜改竄されたのかぁ〜♪」
「ち、違う!これには事情が!」
歌を歌う変異種は、歌を歌い続けた状態で吊り橋を渡り始めた。
重さが加わり更に揺れが大きくなる。
「この俺が〜助けてやる〜その男〜殺す〜♪」
すると、物凄い勢いで変異種は走り出した。
力強い踏み込みのせいで、渡った後の木はボロボロに崩れる。
「お、おい!橋が壊れちまう!」
「アキ!飛ぶよっ!」
俺とエアは羽根を広げ大きく動かした。しかし、間に合いそうもなかった。
「ダメだっ!間に合わないっ!」
諦めて刃を抜いた次の瞬間…
「でぇっはえあぁぁぁッ!!!!!」
歌を歌う変異種の目、喉、膝が深い傷が斬り刻まれていた。
弾け飛ぶ血飛沫を目の当たりにした俺とエアは、何が起こったのか全く分からなかった。
「…かは…何が…おごっだ…?」
すると、歌を歌う変異種は斜め上を見上げた。そこには、高速で羽根を動かしているホウジンゾクがいた。その服装は、忘れもしない。
地下帝国、【ならずもの】の証だ。
「何だ、変異種もこんなもんなのか。腕が落ちたんじゃないのか?アキっ!」
彼が振り向いた時、俺は涙が溢れた。
「…あ…何で…何でここに…。」
「あ?お前が二年も俺を待たせたからだろっ!待ちきれなくて抜け出して来てやったわ。」
その男は悪巧みを思い付いたかのような笑みを浮かべ、歌を歌う変異種を再び見た。
「積もる話もあるが、こいつの始末が先だ。」
「…ぎ、ぎざま…何者だ…。おでの…のどが…。」
「特別に教えてやるよ。俺はなベアに負けた事無いんだ。勝率百パーセント。ホウジンゾクの中で最も残虐な男。俺に出会った以上、生きて帰れると思うな。俺の名は、ヤマだッ!!!」




