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#12 狼煙

さあ皆さん。ここからが本編の始まりと言っても良いです。

次回を楽しみにしながら読んで頂けると幸いです。



二番隊隊長のリトルサマー、側近のセイラ、二番隊隊員のシオナとオリカ、そして僕は逃亡者として認定された。ベアーズロック内では【裏切り者】という称号を受け取る事になる。

あの日の明朝、僕達はリトルサマー隊長の指示の元、王都を立った。

ベアーズロックを去ってから約三ヶ月が経とうとしていた。

「それにしても、最近ベア見なくない?」

おかっぱ頭の細身体型、意外に美人なオリカ。

「確かに、戦闘部隊抜けて正解だったかもね。」

全身が病的に細い、でも可愛いシオナ。

「こら、そんな事冗談でも言わないの。今の私達があるのはベアーズロックのおかげでしょ?」

終始天使のセイラさん。

「何でも良いから飯。」

清楚とは程遠いリトル…


解説風にキャラクター紹介をしていると、右頬を思い切り殴られた。半年も行動を共にしていれば、もうこの痛みにも慣れた。

「語るなキモい。飯作れ。」

僕はいつかこの薄情な元二番隊隊長を超えると決心している。そしていつか、僕の目の前で膝まづかせるのが目標だ。

「…何でオリカとシオナには優しくて僕には冷たいんすか!同じ避難民じゃないですか!」

オリカとシオナ、行動を共にして半年になるが、僕は一度も口を聞いていない。そんな二人は、「一緒にするな。」と言わんばかりの表情でこちらを睨みつけていた。

「ほら、オリカとシオナが一緒にするなってさ。」

「…言ってないですよ。まあ言ってるようなもんか。」

僕はやれやれという思いで、ゆっくりと腰を持ち上げた。食事の準備をした後、女性陣の盛り上がる会話を通り抜けて森の中へと姿を消した。

「…今日も異常なし。」

茂みの中へと隠れ、ベアやベアーズロックがいないか見張りをする。これが僕のメインの仕事だ。時々食事の準備もするが、それはやむを得ない時のみだ。基本は女性陣で順番に対応している。

半年も姿を隠せている以上、油断が生まれるのは仕方の無い事だ。見張りと言ってもずっと見ている訳では無い。最近は睡眠を取っていることが多い。女性陣も僕の監視に来る事はないので、眠り放題というわけだ。

だがこの日は本当にツイていなかった。


「…あの、すみません。」

茂みの外から低音の声が聴こえた。ここの近辺には僕しかいない。恐らく、僕に話しかけているのは間違いないだろう。しかし、僕は全身が硬直してその場から動けなくなってしまっていた。

「…ん?夢でも見ているのかな?」

何故身体が動かないのか。まるで金縛りにでもあったかのような感覚だ。

暫く無視を続けていると声の主はその場を離れていった。小さな隙間から様子を伺うと、その後ろ姿はベアだった。そのベアは、黒い毛に所々スカイブルーの模様が入っていた。

安堵の息を吐いた瞬間、瞬時にベアが茂みの隙間の目の前まで戻って来た。

「やっぱ起きてるじゃないか。ねぇ、君聞きたい事があるんだ。」

「…何ですか。」

僕は心底吐き気がした。だが、今の僕にはそう返事する事しか出来なかった。

しかし、目の前のベアからは不思議と殺意は感じられなかった。

「ベアーズロックって何処にいるか分かる?」

当然、分かるに決まっている。しかし、分かると答えてしまえば、僕はベアに加担した事になる。裏切り者所ではない、反逆者だ。

 ベアーズロックから逃げた僕達【裏切り者】は、ベアーズロックの本拠地がある王都サホロより、東に位置しているタバリという村の近くの森で滞在している。

 王都サホロにいると言えば、【裏切り者】にはならないのではないだろうか…。

 そんな安易な考えに至る程、僕にはもう正義の心はないのだろうか。

 いや、余裕がないというのが正解だろうか。

 「なるほど、王都サホロにいるのですね。ありがとうございます。」

 「!?ち、違うッ!」

 僕は決して真実を口にはしていない。

 しかし、あのベアは僕の思った事を言い当てた。

 …言い当てた?

 「もしかして…心を読むベア?」

 気づいた時には、ベアは既に姿を消していた。

 僕はすぐに立ち上がり、だらけている元隊長の元へと走った。


 「…今度は心を読むベアか。」

 「脳を食べて記憶をコピーするベアに炎を纏うベア…一体何種類いるのかしら。」

 リトルサマーとセイラは深刻な表情を見せた。

 「…助けに行きませんか?」

 僕の言葉に四人は驚いた表情で振り返った。

 「あんた正気!?私達、裏切り者なんだよ?半年も逃げ回ったのに自覚ないの?」

 全員を代表して、シオナが僕の目の前に立ちはだかった。

 「勿論自覚はある。むしろ、僕が処刑対象にならなければこんな事にはなっていないんだ。」

 シオナに続き、オリカが横に並んで同じような表情で僕に向かった。

 「助けに行ってその後は?」

 「さあな、後の事は後に考えれば良いんじゃないか?」

 僕は冷や汗をかきながら笑って答えた。まるでいつぞやの元隊長のように楽観的な発想になっていた。半年も行動を共にしていると似てくるのだろうか。

 そんな僕の答えにシオナもオリカも一歩後を引いた。

 そして僕は、リトルサマーの顔を見て数週間ぶりに羽根を広げ飛び立った。

 「…相変わらず下手くそ。」

 リトルサマーは、過去の自分を思い返していた。

 過去の自分とアキを重ねて見ていた。

 「…ほんとむかつく。」

 リトルサマーは、羽根を広げアキを追いかけた。


 ベアーズロック戦闘部隊、二番隊の隊長リトルサマーと一部隊員が失踪して半年が経過していた。現在ベアーズロックは、三部隊で構成されている。かつての二番隊隊員は、各三部隊に異動となった。そんな王都サホロの安全は、ベアーズロックに守られている事に変わりはない。だが、戦力が落ちているのも事実。

 そんな状況下で王都サホロは、現在複数のベアに包囲されていた。その中心に立っているのは、黒い毛皮に所々スカイブルーの模様が入った特殊なベアだ。

 「あんなベア見た事あるか?」

 「素敵なスカイブルーね。」

 「呑気な事言っている場合じゃないですよ。こんなにベアがいたら、いくら命があっても…。」

 「ベアーズロックは何をしているんだ!」

 「今のベアーズロックには何も期待出来ないぞ。」

 王都サホロの民の噂話を耳にしながらベアーズロック隊員は横切っていく。私が横切った時、横目でこちらを見ているのが視線で分かる。面と向かって文句を言えないのであれば言わなければ良い、ホウジンゾクというのはつくづく弱い生き物だ。

 すると、私の通る道の目の前に一人の女の子が待ち伏せていた。

 「頑張ってね!」

 そんな純粋な笑顔に私は心を奪われかけた。女の子の頭を撫で、私は王都サホロを後にした。 

 王都サホロを出ると、ベアーズロック戦闘部隊が総勢で待機していた。

 「…もうこの地に戻る事はないだろう。」

 深く被ったフードを外し、振り返るとそこには朽ち果てた王都サホロの壁が眼に映った。汚れや傷は長い月日の出来事を思い出させた。

 「全員、心臓を持っているか?」

 私の言葉に隊員達はきょとんとした表情をしていた。

 「この地を離れたくない、死にたくない、闘いたくない、それぞれが思う事もあると思う。だが、我々はベアーズロック戦闘部隊だ。戦闘部隊である以上、闘い続けなければならない。覚悟を持て、命を賭けろ。その気がないのであれば、この地に身を置いていけ。心臓を持っているかと聞いたのはそういう意味だ。心臓とは誰しもが持つ最高級の代物だ。さあ、行こうか。」

  

 軍団長の言葉にベアーズロック戦闘部隊全隊員が雄叫びを上げた。

 この状況で逃げる者などいなかった。むしろ始めて団結が深まった瞬間だった。

 王都サホロに背を向け、ベアーズロック戦闘部隊はベアに立ち向かった。

 

次回もお楽しみに!

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