欠席
「……本当に、ほんの少しでも良い。なにか、少しでも事情を知っている人がいたら教……いや、知っててもここでは言いづらいよね、ごめん」
翌日、朝のホームルームにて。
教壇から、控えめに問い掛けるも返答はない。……いや、問い掛けてもいないか。結局、最後まで言い切れずただ謝っただけだし。
だけど、この沈黙は恐らく僕の言葉が伝わっていないからじゃない。むしろ、今の僕の話に関し何かしら共通の認識がある――それが、皆の表情や反応から改めて見て取れる。今、教室に蒔野さんがいない理由に関し、何らかの共通の認識が。
「……それでは、ホームルームを終わ――」
「ちょっと待って!!」
その後も沈黙が続き、ホームルームも終わり間近のこと。
些か躊躇いつつ告げる僕の言葉を遮る形で、不意に立ち上がり声を上げる女子生徒。少し呆然とする僕に、その生徒――久谷さんは再び口を開いて、
「……その、由良先生。えっと、蒔野さんのことなんだけど……たぶん、昨日送られてきたメールが関係あると思う」
「……メール?」
「あっ、それたぶん私のとこに来たのと同じやつ! なんか、急に美加から送られてきて……」
「……っ!! ちょっと待ってよ亜紀! 私だって、なんか急に香菜から変なメールが来て怖くて――」
「――ちょっと、私のせいみたいに言わないでよ美加! 私だって急にあんなメールが――」
「――落ち着いて皆! 僕は誰も責める気なんてないから!」
すると、久谷さんの言葉を皮切りに次々と発言をする生徒達。そして、そんな彼女達をどうにか宥めつつ情報を整理する。恐らく……いや、間違いなくチェーンメールの類だろう。何処かの誰かが、何らかの意図で蒔野さんに関する何かしらの情報を流したんだ。事実かどうかも定かでない――ともかく、恐らくは彼女の名誉を酷く損ねるであろう何かしらの悪質な情報を。
「……それで、先生。そのメールの内容についてなんだけど……ごめん、流石にここでは言えないかな。この様子だと、たぶん皆も知ってると思うんだけど……それでも、内容が内容なだけに、多くの人の前で話すようなことじゃないと思うから……だから、また後で話すね?」
「……うん、ありがとう久谷さん」
その後、逡巡したようすでそう話す久谷さん。そんな彼女の気遣いに、こういう状況ながらもじんわり胸が暖かくなる。
ところで、本来ならもう一限目が始まっている時間なのだけど……今日、このクラスの一限目は古文――僕の担当する教科だったのは幸いだったかも。




