楽しい時間
「――ところで由良先生。随分と今更ではありますが、私ばかりに構っていて良いのですか?」
「……まあ、それを言われると痛いけど……でも、蒔野さんは気にしなくて大丈夫だよ。ありがとう」
それから、一週間ほど経た昼休み。
例のごとく屋上にて、何処か呆れたように尋ねる蒔野さん。……まあ、それを言われると痛いよね。実際、一つのクラスを受け持つ担任教師として正しい在り方とはお世辞にも言えないだろうし。それでも、今は仕方がないと半ば開き直っているわけで。
「ときに由良先生。どうやらここ最近、巷にて俄かにタピオカミルクティーなる飲み物が流行っているとのことですが――」
「うん、それってわりと前だよね? いや、まあ僕も流行とかよく知らないけど……あっ、遮っちゃってこめんね。それで、タピオカミルクティーがどうかしたの?」
「いえ、構いません。それで、先生はそのタピオカミルクティーなる飲み物を嗜まれた経験はありますか?」
「それが、僕もないんだよね。まあ、正直あまり飲んでみたいとも思わないんだけど」
「ふふっ、遅れてますね先生。私は既に試してみましたよ、昨日」
「あれ、急にマウント取ってきた?」
すると、何処か勝ち誇ったように微笑み告げる蒔野さん。……いや、楽しそうなところ申し訳ないけど、君も十分に遅れてるよ? うん、こういうのを五十歩百歩というのかな。
「それで、どうだったの? お味のほどは」
ともあれ、話の流れに乗りそう尋ねてみる。そう言えば、薺先輩は美味しいと言っていた気が――
「……そうですね、率直に言えばタピオカは不要かと」
「うん、タピオカミルクティーの存在意義が危ぶまれる感想だね」
すると、僕の問いに真剣な表情で答える蒔野さん。うん、だったらもう普通にミルクティーで良いよね? まあ、実際に飲んだらきっと僕も似たような感想になるのだろうけど。……ただ、それはそうと――
「……ふふっ」
「……? どうかしましたか、先生」
「……いや、なんだかすごく楽しいなって。ただ、蒔野さんとこうして馬鹿みたいな話をしていることが」
「――っ!? ……そ、そうですか。随分と奇特な方ですね、由良先生は」
そう伝えると、さっと目を逸らし呟くようにそう口にする蒔野さん。心做しか、その白い頰が朱く染まっているように見えて……ところで、今のって褒められたのかな? ……うん、違う気がする。
「ときに由良先生。ここ最近、巷にて俄かにナタデココなる食品か流行――」
「うん、君はいつの時代の子なのかな?」




