落第
そう、クスッと微笑み告げる蒔野さん。……都合の良い展開? いったい、彼女は何を――
「――大切な恋人を蔑ろにしてまで、いち教え子のために身も心も砕く由良先生。確かに、教師としては理想とも言えるお姿かもしれませんが……恋人たる藤宮先生としては、やはり複雑な感情があるかと。由良先生にとって、私は異性ですから尚のこと」
「……そう、だね」
そんな僕の困惑を余所に、滔々と言葉を続ける蒔野さん。……うん、さっきから『そうだね』しか言ってないね、僕。
……でもまあ、彼女を――薺先輩を蔑ろにしてしまっていたのは紛れもなく事実だし。蒔野さんの――大切な教え子のことで頭がいっぱいだったなんて、何の言い訳にもならない。教職と恋愛を両立出来ないなら、初めから付き合うなという話で。とどのつまり、僕は恋人として落第で……あれ、でも結局あの言葉はどういう――
「――――っ!?」
刹那、思考が止まる。何故なら――いつの間にかぐっと距離を詰めていた少女が、じっと僕の瞳を覗き込んでいたから。




