痛み
「……結局、私は先生に救われたというわけですね。何から何まで」
そう、ふっと微笑み告げる。もちろん不服があるわけでも、ましてや文句があるわけもない。むしろ、感謝してもしきれない。ただ……ちょっと悔しくて、凄く申し訳ないだけ。私は、先生に何一つ――
「……うーん、そうだね。まあ、百歩譲って今回の件に僕が役立っていたとしても――」
「……はあ、百歩譲って、ですか」
すると、頤に軽く指を添え斜めを見ながらそう口にする由良先生。いやなんで百歩譲るんですか。誰がどう見ても、貴方のお陰――
「……だけど、蒔野さん。今のこの状況があるのは、君のあの行動があってこそだ。一人の尊い命を救った、君の勇気ある素晴らしい行動があってこそだ。だから――僕は君のことを心から尊敬するよ、蒔野さん」
「……っ!! ……せん、せい……」
すると、柔らかな微笑でそう口にする由良先生。もう幾度目にしたか分からない、心がじんわりと熱を帯びるあの笑顔で。そんな彼に、私は――
「――大丈夫かい!? 蒔野さん」
「……あ、その……はい、ご心配には及びません」
「……ほんとに?」
「はい、もちろん」
卒然、甚く心配そうな表情で尋ねる先生。まあ、それもご尤も……突如、私が俯いて胸を押さえ始めたのだから。……でも、なんで? なんで、急に胸が――
……いや、止そう。もう、これ以上は無理だから。いくら分からない振りしても、不都合な事実から目を逸らしても……むしろ、そんな私の意思に反しいっそう強く自覚するだけだから。
……ほんとは、気付きたくなかった。……でも、もう手遅れ。この痛みは……感情は、もう――




