約束
「…………」
そう、僕の瞳を真っ直ぐに見つめ告げる久谷さん。そんな彼女の言葉に、僕は真一文字に口を結ぶ。
「……もちろん、事情は分かるよ? こう言うと悪いのかもしれないけど……蒔野さん、ちょっと孤立しちゃってるし。でも、由良先生は一年二組皆の先生だから、こういうのは……蒔野さんだけを特別扱いみたいにするのは、やっぱり良くないかなって……」
「……久谷さん」
続けて、少し躊躇うように話す久谷さん。……うん、全く以てその通り。反論の余地など何処にもない。なので――
「……うん、そうだよね。ごめんね、久谷さん。これからは、蒔野さんだけでなく皆も同じように気に掛けるようにするよ」
「……っ!! うん、それが良いよ!」
そんな僕の言葉に、ぱっと表情を輝かせ答える久谷さん。……全く、どうしようもないな、僕は。もちろん、まだまだ未熟なのは分かってるけど……それでも、教え子にこんなに気を遣わせてしまうなんて。
すると、僕の返答に満足してくれたのか、輝く笑顔のまま「またね」と言って去って行く久谷さん。そんな彼女をこちらも笑顔で見送りつつ、先ほどの自身の言葉を振り返る。
……本当に、出来るのか? 皆を平等に気に掛けるということは、即ち――
……いや、出来るかどうかじゃない。久谷さんの言ったことは、紛れもなく正論――可能かどうか以前に、これは僕の義務なんだ。だから、明日きちんと蒔野さんと話して――
――結論から言うと、久谷さんとの約束は一方的かつ身勝手に破ってしまうこととなる。と言うのも――この日を最後に、蒔野さんが姿を見せなくなってしまったから。




