心からの言葉を。
「ところで、由良先生。今後、決して約束を破らないのはもちろんとして……今回、悲しくも違えた件を許してあげる代わりに、一つお願いをしたいのですが」
「……うん、もちろんだよ。何かな?」
それから暫しして、何処か悪戯っぽい笑顔でそう口にする蒔野さん。……うん、なんだか少し嫌な予感もするけど……でも、関係ない。彼女が満足してくれるならもちろん何でもするつもりだ。
……ただ、それはそれとして……その綺麗な頬が朱に染まっているのは、果たして気のせ――
「――それでは、言ってください。あの時、藤宮先生に伝えた言葉を、今ここで」
「……へっ?」
突然の思わぬ言葉に、ポカンと口を開く僕。……えっと、それはいったい…………ん、まさか――
「……えっと、蒔野さん。どうして、それを……」
「ええ。二日前の夕さり頃、藤宮先生が病室を訪れまして。もちろん、先生の状態を確認するためですが……その際、私に色々と教えてくれたんです。貴女には、伝える義務があるからって」
「……そっか、薺先輩が……」
蒔野さんの説明に、すっと納得を覚える僕。うん、それは何と言うか……先輩らしいな。
ともあれ、今か今かといった様子で待ち構える蒔野さん。有無も言わさぬその笑顔に、少し困惑――それでいて、ふっと微笑ましくなる。そんな彼女の瞳を、真っ直ぐに見つめ告げる。ずっと言えなかった、心からの言葉を。
「――遅くなってごめんね、蒔野さん。僕は……誰よりも、蒔野有栖が好きなんだ」




