もう二度と
再び、思考が止まる。そんな僕の目には、果たして恐怖に揺れる瞳の蒔野さん。だけど、それは思っていたのと少し違って――
「……先生」
すると、向き直った僕を正面からぎゅっと抱き締める蒔野さん。そして――
「……お願い、ですから……どこにも……どこにも、行かないで……」
そう、声を震わせ告げる。さっきよりも、いっそう震えた声で。その瞳に、声に……言葉に、流石に分からないはずもなかった。いつからかは分からない――それでも、彼女がとうに気が付いていたことに。
「……由良、先生……」
ゆっくりと身体を離し、僕を見つめる蒔野さん。吸い込まれるほどに綺麗なその瞳が、何を訴えているか――やはり、流石に分からないはずもなく。
心臓が、ドクンと跳ねる。……もちろん、分かっている。これは、越えてはならない禁断の一線……そして、一度踏み入れてしまったら、二度と戻れないことも。
仄暗い部屋の中、淡い光が彼女を照らす。そんな幻想のような世界の中、そっと目を瞑り瞼を閉じる。そんな彼女の華奢な肩にゆっくりと手を添え――そっと、唇を重ねた。




