……だけど、これだけは――
「…………そんな、ことが……」
蒔野さんの話を聞き終えた後、茫然自失として呟く僕。……そんなの、あまりに辛い……どころか、トラウマになってしまっても何ら不思議じゃない。それでも、一ヶ月前まで学校に来て……そして、今こうして僕の前にいるだけでも本当に凄いことで……だけど――
「……だけど、それは蒔野さんのせいじゃない。もちろん、その生徒――藤本さんのことは本当に辛く悲しいことだ。だけど……その子が亡くなってしまったのは、絶対に蒔野さんのせいじゃない」
そう、彼女の目を真っ直ぐに見つめて告げる。自分のせいで、藤本さんが亡くなった――そう、自身を追い詰めてしまう気持ちは分からなくはない……つもりだ。
……だけど、これだけははっきりと言える。不幸にも藤本さんが亡くなってしまったのは、絶対に蒔野さんのせいじゃな――
「……違うんです、由良先生」
「……えっ?」
すると、少し俯き呟くようにそう口にする蒔野さん。僅かに見えるその表情は、何処か自嘲するような微笑に見えて。それから、ほどなくゆっくりと口を開き言葉を紡ぐ。
「……あの時、私は彼女を……藤本さんを、助けられなかったんじゃない――助けなかったんです」




