再会
――それから、およそ一ヶ月経て。
「――ご無沙汰です、由良先生。そして、申し訳ありません。お忙しい中、こうして呼び出してしまって」
「……ううん、僕はすごく嬉しいよ。連絡をくれたことも……こうして、久しぶりに会えたことも」
そう、淡く微笑み告げる清麗な少女。今は、一年で最も昼間が長いとされる六月下旬。だけど、空はすっかり黄昏に染まっていて。
そして、僕らがいるのは屋上。一ヶ月ほど前まで、目の前の少女――蒔野さんと昼食を共にしていた屋上。そして、彼女は今、そのフェンスの前で微笑を浮かべ佇んでいて。
ところで、事の経緯を説明すると――今日、全ての業務が終わった後スマホを見るやいなや驚愕に目を見開いた。そこには、一通のメール――差出人は、蒔野有栖。
一ヶ月ほど前の、あの日――公園のベンチに独り腰掛ける蒔野さんを見つけた日、僕は彼女と連絡先を交換していた。何かあったら……いや、何もなくても、連絡したくなったらいつでも連絡してほしいと告げて。
尤も、本来なら生徒との個人的な連絡先の交換などやはりご法度だろう。だけど……それでも、真面目にルールなんて守っている場合じゃないと思った。もちろん、これが社会人として――本来、生徒を導く立場である教師としてあるまじき態度だと分かってはいるつもりだけど……それでも、そう思ったから。
……まあ、それはともあれ――
「……本当に、久しぶりだね蒔野さん。元気だっ……いや、この質問はあまりにも無神経だよね、ごめん……」
「ふふっ、随分と取り乱していますね。どうぞお気になさらず。まあ、元気とは流石に言い難いですが」
「……そ、そうだよね……ごめん」
一人狼狽える僕に、可笑しそうに微笑み答える蒔野さん。……まあ、それはそうだよね。元気だなんて、そんなわけなくて……それでも、こうして笑ってくれてるだけでも、少しほっとしてしまう自分がいて。
「……と、とにかく何か話さない? ほら、前みたいにあのベン――」
「――ねえ、由良先生」
そう、なおもたどたどしく話す僕の言葉を遮る形で僕の名を呼ぶ蒔野さん。そして――
「――もう、ご存知なのでしょう? 例の、私の噂について」
そう、仄かな微笑で尋ねる蒔野さん。そんな彼女に、思わず口を噤む僕。だけど、
「……中学時代、君が同級生を殺した、という噂のことかな?」
そう、逡巡しつつも尋ねてみる。流石に、分かっていた。再び彼女と向き合う上で、この話は決して避けて通れないことは。ならば、せめて僕から口にすべきだと思った。そして――
「――だけど、そんなのはただの噂……それも、この上もなく悪質な噂。もちろん僕も、クラスメイトの誰も信じちゃいないから、どうか……」
どうか、安心してほしい――そう告げようとして、止まる。……馬鹿か、僕は。あんな噂が流されて、安心なんて出来るはずもないのに。今だって、きっと無理に笑顔を――
「――お気遣い、ありがとうございます由良先生。ですが、生憎ながら事実なんです」
「…………へっ?」
刹那、思考が止まる。……いや、きっと聞き間違いだよね。蒔野さんが、そんなこと――
すると、困惑する僕に再び微笑みかける蒔野さん。そして、ゆっくりと口を開き言葉を紡いだ。
「――言葉の通りですよ、先生。中学時代、私は一人の女子生徒を死なせました」




