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「――最近、元気ないね恭ちゃん」
「……へっ? あ、いえそんなことは――」
「……まあでも、仕方ないよね。大切な教え子が、あんなことになってるわけだし」
「……ええ、まあ……」
その日の帰り道。
黄昏色に染まる空の下、隣を歩きながら心配そうに話す薺先輩。そんな彼女の言葉からも、例の件――蒔野さんの件について先輩も何か知っていることが分かる。尤も、それが一年二組の皆や僕が知ってる全てなのか、あるいは断片的な情報なのかまでは分からないけど……だけど、程度を確認することにきっと意味などないのだろう。
「……でも、あんまり無理はしないでね? 恭ちゃん。もちろん、大切な生徒を心配するなという方が無理だろうし、教師としてはそうあるべきだとも思うけど……それでも、心配が行き過ぎて恭ちゃんが苦しんじゃったら元も子もないから」
「……薺先輩」
そう、僕の顔を覗き込むように話す薺先輩。その綺麗な瞳には、僕でも分かるほどにありありと不安が揺れていて。……本当に、有り難いな。これは僕が解決すべき件なのに、こんなにも僕のことを気に掛けてくれて。なので――
「……いえ、どうか心配なさらないでください薺先輩。僕は無理はしていませんし、蒔野さんのことは必ず僕が救……いえ、彼女の力になってみせますから」
そう、彼女の瞳を真っ直ぐに見つめて告げる。……いや、まあわざわざ言い直すこともないのだろうけど……やっぱり、救うなんて言うと随分と烏滸がましい気もするし。
ただ、それはともあれ……これで、少しでも彼女の不安を払拭することが出来たら――
(…………だから、不安なんだけどな)
「……へっ?」
すると、微かに届く先輩の言葉。視線だけで尋ねてみると、何でもないよと首を振る薺先輩。
……もちろん、分かっている。僕が彼女を不安にさせてしまっていることは、流石に分かっている。……だけど、何か……どうしてか、何か違和感のような感覚が胸中を渦巻いて。
「…………ふぅ」
帰宅後、六畳の居間のベッドに腰掛けそっと息を洩らす。……さて、どうしようか。正直、現時点では何の手の打ちようもない。……さて、どうしようか――
そんな思考の最中、ふと近くに置いていたスマホに手を伸ばす。……しまった、煮詰まった時はつい理由もなく……うん、ほんと悪い癖だと思う。だけど……もしかすると、もう一度あのメールを見れば何か分かることがあるかもと思い直しスマホを取り――
「…………ん?」
とりあえずメールを――そう思いスマホを操作しようとした手が、ふとピタリと止まる。今しがた上がったらしい、あるネットニュースに目を惹かれたから。
ところで、普段はネットニュースなどほとんど気にも留めない。取るに足らないもの、真偽がまるで定かでないもの、あるいは両方――いずれにせよ、そこに注意を持っていく価値なんてないと思うから。……いや、理由もなくついスマホを取ってしまう僕が言っても何の説得力もないけども。
ともあれ、本題に戻ると……だけど、今回のニュースはつい目を惹かれてしまうもので。と言うのも――数日前、ある一人の高校生が、あるご年配の男性の命を救ったというもので。
……凄いなあと、素直にそう思う。こういう言い方が良くないのは承知の上だけど、高校生――僕より一回りほども歳下の子が、誰かの尊い命を救うなんて……それに引き換え、僕は大切な教え子一人救えな――
「…………あれ?」




