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――そう、僕一人なら。
「……さて、これでひとまず話は終わりだけど……どう? 軽蔑した? 先生」
「……久谷さん」
そう、ニコッと微笑み尋ねる久谷さん。そんな彼女の笑顔に、胸の痛む音がする。その太陽のような笑顔の裏に、どれほどの苦悩を隠しているかと思うと、ズキリと胸の痛む音がして――
軽蔑なんてしていない――そう、言葉を掛けることは簡単だ。実際、軽蔑なんて一切してないし。
だけど……だけど、それを言って何になる? 僕なんかがそう言って、いったい何になる? そんなことで、彼女が何ら癒されることはない。僕一人が出来ることなんて、皆無と言って差し支えない。
――そう、僕一人なら。
「――突然の無礼、どうかお許しください、久谷さん」
「…………え?」
卒然、ゆっくりと扉が開く。すると、茫然とした様子の久谷さんが、少しの間があった後ゆっくりと口を開いて――
「…………蒔野、さん……?」




