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狂った針は戻らない  作者: 暦海


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蒔野有栖

「――おはようございます、皆さん。今年から、当校にて皆さんの担任を務めさせて頂きます、由良ゆら恭一きょういちと申します。まだまだ至らぬ身ですが、どうぞ宜しくお願いします」



 桜が徐々に満開へと近づく、麗らかな春の日のこと。

 京都市内の公立校、明陽めいよう高校――その四階に在する、一年二組の教室にて。

 教壇からぐるりと見渡しつつ、どうにか緊張を抑え挨拶を述べる僕。……いや、流石に堅すぎたかな。見ると、クスッと笑っている生徒もちらほらいるし。……でもまあ、笑われてるならまだ良いよね。


 さて、改めまして――僕は、由良恭一。大学卒業から数年、大手家電メーカーで勤務した後、教職の道へ。そして、教師二年目の今年、初めて担任のクラスを受け持つことに決まって。……うん、頑張ろう。



「――ねえ、由良先生。折角だし、皆で自己紹介しようと思うんだけど良いかな? あっ、皆もどうかな?」


 すると、ほどなくしてパッと手を挙げそう提案する女子生徒。彼女は久谷くたに彩香さいか――栗色のボブカットを纏う、人懐っこい笑顔が印象的な美少女だ。そんな彼女の提案に、多くの生徒が賛同している様子。もちろん、僕としても断る理由はないので肯定の意を示す。


 そういうわけで、現在の席順――五十音順に自己紹介を始める生徒達。名前、出身中学、趣味などといった具合に。中には、少し面倒そうな様子の子もいたけど……まあ、そういう子もいるよね。嫌々付き合わせてしまったのなら、それは本当に申し訳ない。


 心の中で謝罪をしつつ、次々と進んでいく自己紹介に耳を傾ける。そして、あと数人となったところですっと立ち上がる女子生徒。そして――



「――蒔野まきの有栖ありすです。宜しくお願いします」



 そう、簡潔に挨拶を述べるやいなや、すっと着席する女子生徒。肩ほどまで掛かる黒髪に透き通る瞳、そして雪のように白い肌――控えめに言って、息を呑むほどに清麗な少女だ。だけど――



(……ねえ、ちょっと感じ悪くない? あの子)

(だよね、私も思った。緊張してるにしても、ちょっと冷めすぎ)


 教壇近くの席で、声を潜め話す生徒達。もちろん、彼女――蒔野さんが悪いわけじゃない。だけど……実際、彼女から受ける印象が、お世辞にも暖かな印象ものとは言えないのもまた事実で。


 と言うのも――明け透けに言ってしまえば、感情が見えない。それこそ、一切の感情が。それが、今教室(しつ)内に広がっている、何処か彼女を敬遠するような雰囲気の要因だろう。



 その後ほどなく、クラス皆の自己紹介が終了。本日は始業式のため、当然ながら授業はない。なので、今日はこれにて解散となるのだけど――やはりと言うか、久谷さんの周囲には既に多くの生徒が集まっていて。早くもクラスの中心となっている彼女を見ると、僕なんかよりよっぽどクラスを纏めるに相応しいと改めて思う。そして――


 ちらと、教室後方へ視線を向ける。そこには、誰に一言も告げることなく、静かに教室を後にする蒔野さんの姿が。僕は一年二組の担任であり、当然のこと当クラスの生徒は皆、平等に気に掛けるべき立場にある。……だけど、それでも――



 ……それでも、彼女をこのまま放っておくわけにはいかない――まるで虫の知らせのごとく、僕の直観がそう告げていて。






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